事業を成功させる上で、市場分析は非常に重要です。しかし、「市場分析」という言葉を耳にしたことはあっても、具体的に何をすればよいのか曖昧な認識の方も多いかと思います。
この記事では市場分析する目的の他、分析に使われている最新の手法についても解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
市場分析は何のためにやるのか
売上を伸ばしている企業は、必ず市場分析を行っています。ですが、市場分析しただけでは売上も利益も伸びません。では、何のために市場分析をするのでしょうか。
市場分析は、売上や利益を増やすことを目的とした企業活動のために行われます。その詳しい内容を見ていきましょう。
正しいマーケティングの資料に使われる
市場分析をする1つめの目的は、マーケティングの資料にすることです。
企業が売上目標を達成させるためには、正確なマーケティングが必要不可欠です。しかしながら、最新のマーケティング手法を取り入れている企業の全てが売上をアップさせているとは限りません。多くの企業は、正しい市場分析ができていないためにマーケティングに失敗しています。
市場分析が正しくできていないとマーケティングに使用するデータに間違いが生じ、本当の顧客ニーズを無視したマーケティングが進みます。例えるなら、コーヒーを求めている客に対してミネラルウォーターを提供するようなことが起きてしまうのです。
顧客ニーズとのずれを防ぐ為には、マーケティングに使用するデータの確度を上げる必要があります。データの確度を上げるのが、正確な市場分析です。
経営戦略を構築するための資料
市場分析をする2つめの目的は、経営戦略の資料にすることです。
企業が経営戦略を構築するにあたり、経営者が参考にするのは市場分析のレポートです。市場の動向を把握し、先行きの仮説を立てたり予測したりするのに市場分析のレポートが使用されます。
企業が成長するための経営戦略は、このレポートの確度が命運を握っていると言っても過言ではないでしょう。
時間とお金の無駄を防ぐ
市場分析をする3つめの目的は、時間とお金の無駄を防ぐことです。
マーケティングや企業戦略の計画が定まると、企業は必要な人材の確保と開発を行う為にそれらへ時間とお金を使います。計画では投資した額以上の売上を見込むわけですが、マーケティングや企業戦略が間違っていると、売上が伸びず赤字を計上してしまいます。
上述したとおり、正しいマーケティングと企業戦略には市場分析が不可欠です。計画の段階で投資に見合うリターンが見込めないと判断できれば、無駄に時間とお金を使わずに済むのです。
市場分析のために押さえておきたい3つの情報
市場分析をするにあたり、押さえておきたい情報は以下の3つです。
- 市場規模
- 顧客が抱えている課題
- 競合情報
3つとも、市場分析をするにあたっては知っておく必要があります。基礎的な要素も含むので、理解を深めておきましょう。
市場規模
まずは「市場規模」です。
市場規模とは、あるくくりの中における年間の取引総額と定義されます。飲食業や小売業というくくりで計上されることが多いですが、市場分析をするにあたってはさらに以下の3つで細分化することが推奨されます。ファミレスチェーンの場合を例にして、ご説明します。
まずは「TAM(Total Addressable Market)」です。これは、属している業界で獲得できる可能性がある最大市場規模を意味します。ファミレスチェーンを例にすると、居酒屋や牛丼チェーンなども含めた飲食業全体での市場規模の事です。
2つめは「SAM(Serviceable Available Market)」です。これはTAMのくくりをもう一歩細かくさせたもので、ファミレスチェーンに例えるならファミレスの市場規模をSAMとして設定します。
3つめは「SOM(Serviceable Obtainable Market)」です。これは、そのサービスが実際に獲得できると予測する市場規模を意味します。ファミレスチェーンに例えると、全国にある全ての店舗の合計で集客が見込める市場規模のことです。
TAMとSAMについては、官公庁や業界団体がレポートを公開しています。官公庁のレポートは、集計から発表までにタイムラグがあることが多いので、最新のデータをいち早く知りたい場合は業界団体のレポートを活用しましょう。また、民間の調査会社が公表している物も、有料で閲覧できます。調査会社のレポートのほうが、詳細な情報が載っています。
SOMについては算出のための数値が非常に限定的になるので、公開されているデータを探すのは難しいです。企業によっては顧客アンケートなどを用いてニーズを分析し、算出しています。ターゲットが明確な場合は、SOMのデータを使ったマーケティングが適切と言えます。
顧客が抱えている課題
次に「顧客が抱えている課題」です。
顧客が抱えている課題は、新しい商品やサービス開発のための重要なデータになります。現在でも様々なサービスが開始されたり新商品が発売されたりしているのは、顧客が抱えている課題が解決していないからです。
課題の解決手段は、顧客のニーズそのものなので、市場分析の重要な要素でもあります。また、顧客の課題を把握することは、既存の商品やサービスの改善にも活用できます。そのため企業は、顧客を対象にしたアンケートやインタビューを行って顧客の声を集めています。最近では、インターネットを通じてのアンケート調査に回答したユーザーに対して、謝礼を出している企業もあります。
競合情報
最後に押さえておきたいのが「競合情報」です。
売上アップのための市場分析、それを元にした事業展開は競合他社も行っています。ですが、同じようなサービスを展開している企業が集められるデータに、大きな差は無いはずです。これではデータを元に新しい商品やサービスを生み出しても、内容が似たり寄ったりになります。
競合他社との競争に勝って売上をアップさせるためには、競合他社とは違う価値を含めたサービスを提供するか、ターゲットをずらしてその先の市場を独占するなどの戦略が必要になります。
競合情報を分析するの一般的な手段は、他社のビジネスモデルや売上高などを調べることです。実際に競合他社の製品を購入したりサービスを利用したりして、他社の強みや弱み、コンセプト、提供されている価値の内容の調査もします。
これらの調査内容から競合他社が売上を上げている理由を分析することで、自社の取るべき戦略を定める事ができます。
市場分析のための代表的なフレームワーク(3C、PEST、SWOT、ファイブフォース)
市場へ影響を与えている様々な要素について、枠にまとめて分析する手法を「フレームワーク」といいます。市場分析の代表的手法であり、市場の規模や変化を把握するだけでなく、競合他社が市場の変化にどう対応しているのかを知ることができます。
これから紹介するのは、市場分析でよく使われている4つの代表的なフレームワークです。
3C分析で成功要因を分析する
まずは3C分析です。3C分析とは、市場を構成する3つのC「顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)」、を調査・分析し、企業がその市場での成功要因を分析する手法です。顧客に関しては、市場規模やニーズを分析し、競合と自社でニーズに対する強みやコンセプトを分析し、成功要因を見つけ出します。
PEST分析で外部環境を把握する
「PEST分析」とは、主に外部環境を分析するときに4つのフレームを用いる手法です。3C分析とは違って自分でコントロールできない要因が分析対象で、大局的見地からの分析ができます。
政治的要因(Politics)は法律や条例、規制などの変化を調査するものです。政治は市場の成長を推進する働きもしますが、規制的な動きに転じることもあります。
経済的要因(Economy)は経済成長や景気、物価や為替動向などの変化を調査するものです。景気の波の動きや為替の動向は、少し変化するだけでも企業戦略に大きく影響します。
社会的要因(Society)はライフスタイルや流行、社会環境の変化を調査するものです。少子高齢化やコロナ禍のような、社会環境への大きな影響に対応する企業戦略を立てる際、重要視するポイントです。
技術的要因(Technology)は、マーケティングなどに関わる技術の変化を調査するものです。新しい技術を用いた製品が出回る際、全く別の分野であっても市場に与える影響は少なからずあるので、戦略構築には欠かせません。
SWOT分析で現状を把握する
「SWOT分析」は、内部環境と外部環境のプラス面とマイナス面を分けて分析する手法です。分け方としては、内部環境のプラス面である強み(Strength)と、マイナス面である弱み(Weaknesses)と、外部環境のプラス面である機会(Opportunities)と、マイナス面の脅威(Threats)の4つです。SWOT分析という名前は、この4つの単語の頭文字から名付けられています。
内部環境と外部環境の両面から分析できるので、取り巻く環境の全体を捉えることができます。立てようとしている戦略に対する現状の要素が分類しにくい場合もありますが、必ずプラス面かマイナス面かにはっきりと分ける必要があります。曖昧な要素が減るので、より確度の高い戦略の立案が可能になります。
ファイブフォース分析で業界の動きを読み取る
「ファイブフォース分析」は競争環境を構成する要因を分析するもので、以下の5つを分析するものです。
- 業界内の競合他社
- 代替品の脅威
- 新規参入者の脅威
- 買い手(消費者)の交渉力
- 売り手(自社)の交渉力
競合他社の力が弱く、新規参入者や代替品の脅威も弱ければ、その市場では買い手は自社製品以外を選ぶ余地がなくなって交渉力が弱まります。自然と売り手の交渉力が高まって、価格を上げて利益を増やせるのです。
この5つの強さの動向は業界の動きそのものであり、どこが強いのかによって取るべき戦略が変わるので、しっかりと分析できると自社の戦略が明確になります。他業界の調査も行えば、新規参入のための重要な判断材料としても使えます。
市場分析において消費者の行動を理解する方法
ここまで説明してきたフレームワークをより有効に活用するためには、フレームに当てはめていく要素のダブりや漏れを防ぐことが重要です。そこで、この項目ではフレームワークの結果を洗練させるための考え方や手法を説明します。
MECE状態という考え方
フレームワークをより洗練させるために、「MECE」という考え方を抑えておきましょう。MECEとは論理的思考法(ロジカルシンキング)の1つで、一般的に「漏れなく、ダブりなく」という意味で使用されています。
これまで紹介してきたフレームワークも含めて、課題の解決や要因の分析を行うときは、挙げられた要素をフレームに当てはめるように区分けして行います。この区分けが適切でない状態では何かしらが漏れたりダブったりしてしまい、分析過程のどこかで相容れない要素が出てしまいます。それにより、分析結果に矛盾が生じる可能性があるのです。
これを解消するためには、分析対象である課題をシンプルかつ小さい要素に細分化する必要があります。その上で「漏れなく、ダブりなく」というMECE状態を目指すようにして行うのが、課題解決にあたっては必要不可欠です。
ロジックツリーを作る
課題をMECEの状態まで細分化させるツールとして有効なのが、ロジックツリーです。1つの物事や問題を細かい要素に分解させていく手法で、分解を繰り返す内に枝分かれする木のように描かれるので、ツリーと呼ばれます。
はじめに設定する要素についてきちんと深掘りするできることと、分析する過程をわかりやすく可視化できることが大きな利点です。細分化された個々の要素のうち、どれが大本の要素を解決させるポイントなのか問題の所在や原因を特定することで、適切な対応策に繋げていくことができます。
ロジックツリーを作るときは、はじめから細かくするのではなく段階的に要素を分解させましょう。闇雲に細分化させず、きちんとMECE状態になるように細分化させるのが、ロジックツリーが成立する条件です。上手いロジックツリーが完成すれば、すぐに具体的な解決策が考えつくようになります。
消費者への理解を深める行動モデル
この項目では、消費者の行動モデルについて説明します。市場分析においては前述のフレームワークに加えて、消費者の行動に関する分析をより詳しく行うことが望ましいです。
市場分析を的確に進めるためには、消費者の意思決定に関わる行動モデルを知っておく必要があります。それを頭に入れることで、消費者への理解をより深められます。
そこで、消費者が製品を認知してから購入するまでの心理状態を理解するために、覚えておきたい行動モデルを3つご紹介します。
行動モデルの基礎AIDMA
「AIDMA」とは、日本では長年活用されている基礎的な行動モデルです。消費者がある製品を購入するまでのプロセスを、認知(Attention)し、関心(Interest)を寄せ、欲求(Desire)を持って、記憶(Memory)して、ゴールである購買行動(Action)までの段階に整理します。
流れとしては、まず広告宣伝などで消費者に商品を「認知」してもらいます。その中で「関心」をもって来店したお客に対して、接客を通じて商品の魅力や購入する事で得られる具体的なメリットを伝えます。それにより、商品を買いたい、サービスを使いたいという「欲求」を持ってもらいます。一度退店したお客に対しては、アプローチとしてDMや電話でフォローし、持ってもらった欲求を「記憶」してもらいます。こうした一連の働きかけで十分に引き付けられた顧客が、「購買行動」に移るというわけです。
中でも、消費者に商品のことを強く印象づけさせて購買意欲を高めたままにするためにも、「記憶」の部分がとても大切になります。興味や関心を抱かせてから時間を置いてしまうと、購買意欲も下がってしまうからです。
インターネットに対応するAISAS
「AISAS」とは、2005年に電通が提唱した比較的新しいモデルで、インターネット時代に対応した代表的行動モデルです。消費者自身が商品について検索し、購入後にレビューするまでの動きがモデル化されています。
製品を発見(Attention)し、興味(Interest)を持った後は、商品について検索(Search)し、購入(Action)した上で共有(Share)までしています。スマートフォンの普及によって商品の情報を手軽に検索できるだけでなく、そのまますぐに購入するという行動が可能になりました。
商品の感想やレビューを通販サイトやSNSで共有してもらえると、そのまま他の消費者に向けての広告宣伝にもなる情報となります。
SNS時代の行動モデルSIPS
SNSユーザーの急増に伴って消費者の購買行動も大きく変化しました。これに対応し、SNSの利用を前提とする購買行動モデルとして提唱されたのが「SIPS」です。
SNS時代においては、ユーザーが投稿に対して共感(Sympathize)するところから始まります。そのあとで投稿に載っている情報や口コミを確認(Identify)し、「いいね」ボタンやコメントを残すなどして参加(Participate)します。最後に、参加した投稿を自分のアカウント上で共有・拡散(Share & Spread)するまでが、ゴールとして定められています。
AIDMAやAISASと大きく違うのは、SIPSでは購入(Action)を含めていないことです。情報の発信や共有が容易なSNS時代にあっては商品の購入にまで至らなくても、サービスや商品に対して「いいね」を押して貰えたり、投稿をシェアしてもらうだけで情報が拡散され、マーケットが拡大していくのです。
SNS上で共有され、拡散できるような企画やコンテンツを広告として発信できれば、マス媒体に載せる広告量を増やすよりも効率的に成果を生み出せるので、大小問わず様々な企業がマーケティングのために利用しています。
市場調査の方法
市場分析をする上で必要な知識や考え方について、説明してきました。これからご紹介するのは、分析の元となったり裏付けになったりする、市場調査の方法です。
市場調査は、大きく分けて2つの方法があります。それぞれどんな方法なのかを詳しく見ていきましょう。
分類 | 定量調査 | 定性調査 |
---|---|---|
分析するデータ | 数値データ | 数値化できないデータ 発言録や行動監視データなど |
調査の対象人数 | 多数 | 少数 |
活用方法 | 仮説の検証 | 仮性の立案 |
代表的な手法 | ネットリサーチ 会場調査 郵送調査 ホームユーステスト | デプスインタビュー グループインタビュー オンラインインタビュー 訪問観察調査 |
定量調査は数字にフォーカスして調査
1つめは「定量調査」です。
定量調査とは、アンケート調査などで収集したデータを数値にして集計し分析する方法です。主に以下の4つの方法で行われます。
ネットリサーチ
インターネット上でアンケート調査を行い、データを収集して分析する方法です。回答者の募集から集計まで全てネット上で完結するのが特徴なので、コストをかけずスピーディーに行えるのがメリットです。
会場調査
所定の会場に人を集め、製品のパッケージを見てもらったり、試飲や試食、試用を行ってもらったりして実際に評価してもらう方法です。
郵送調査
アンケート調査の書類を対象者に郵送で送付し、回答を返送してもらう方法です。アンケートは、紙のものとネット上のアンケート画面URLを案内するものがあります。住所さえ分かれば書類を送付できるので、通常のネットリサーチでは募集や調査がしにくい層、企業や団体の特定部署、病院や学校などから回答を得られることがメリットです。
ホームユーステスト
対象者に製品のテストをさせた上で調査する場合に、その製品とアンケートを送付して製品を使ってもらう調査方法です。日常生活の中でテストさせたい製品や、使用した効果を実感するまでが長い製品について調査するときに用いられます。
定性調査がフォーカスするのは人の声
2つめの「定性調査」とは、数値ではなく実際にインタビューした内容を分析する方法です。
インタビュアー1人に対し、相手が1人で行うインタビューを「デプスインタビュー」、複数名の相手に行うインタビューを「グループインタビュー」といいます。
消費者のニーズを深掘りしたり、話題にデリケートな内容も含まれるときはデプスインタビューが活用されます。一度に複数人の話をヒアリングする場合では、グループインタビューを用います。
昨今では、インタビューをオンライン上で行う「オンラインインタビュー」も、手法として取り入れられています。
特殊な例として、調査対象者の生活環境と行動に密着してインタビューする「訪問観察調査」という手法もあります。インタビューの内容だけでなく、行動の一つ一つや生活環境そのものも分析対象である場合に取り入れられています。
市場分析を課題解決に活用しよう
当記事では、市場分析の手法について解説してきました。一口に市場分析といっても、どこから何を見て分析するのかによってさまざまな分析手法があります。
小難しい話だったかもしれませんが、途中で解説したフレームワークは市場分析において課題の解決に役に立つだけでなく、個人の課題を洗い出すのにも応用できます。あなたも市場分析をマスターして、売上アップや自己啓発などに役立てましょう。