輸出時に必要となる売上計上は、業種や取引内容によってそれぞれ異なります。
この記事では、輸出時における売上計上基準について解説します。概要や日本の会計基準・国際会計基準の影響なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
輸出入取引の貿易条件と消費税
海外に商品を発送する時は、発送先の税法に従わなければなりません。ここでは貿易と消費税の関係について紹介します。
貿易について
輸出入貿易では、国際商業会議所(ICC)が制定したインコタームズという国際規則が有名です。
インコタームズとは、運賃・保険料・通関手続きなど、貿易時のルールを制定したものです。輸出入取引のルールを取り決めた重要な規則ですが、支払い方法や所有権の移転時期などは明記されていません。2010年の改訂版では国内でも適用できることを明確化しており、「国内および国際取引条件の使用に関するICC規則」という副題も付されました。ただし、法律や国際条約ではないため、当事者双方の合意によってはじめて効力が発生します。現在は2020年1月1日に改訂されたインコタームズ2020が発効されています。
インコタームズによる貿易条件
インコタームズの貿易条件は海上輸送とそれ以外で分かれ、売主と買主の負担コストが明確に決められています。以下を参考にしてください。
【輸送全般に適用】
・EXW(工場渡し):工場で商品を引き渡した後は購入者がコスト負担
・FCA(運送人渡し):運送業者に商品を引き渡した後は、購入者がコスト負担
・CPT(輸送費込み):売主が指定仕向地までの運送費用を負担。保険料は購入者負担
・CIP(輸送費保険料込み):CPTと同条件で、かつ保険料まで売主の負担
・DPU(荷卸込持込渡し):売主が指定仕向地までの輸送と荷卸しの義務を負担
・DAP(仕向地持込渡し):ターミナル以外の場所に引き渡してからは購入者のコスト負担
・DDP(関税込持込渡し):売主が指定仕向地までのすべてのコストを負担
【海上・内陸水路輸送に適用】
・FAS(船側渡し):指定船積港の本船の近くに商品を置いてからは購入者のコスト負担
・FOB(本船渡し):FASの条件に加え、船への積み込みまで売主が負担
・CFR(運賃込み):FOBの条件に加え、指定仕向港までの運送費用も売主が負担
・CIF(運賃保険料込み):FOBの条件に加え、指定仕向港までの運送費用・保険料まで売主が負担
輸出入取引の消費税
消費税は国内で「資産の譲渡」「資産の貸付」「役務の提供」を行った場合に課されます。そのため、輸出入取引における消費税を計算するときは、国内において「資産の譲渡」等があったかどうかが重要です。国外で上記の取引を行った場合は、消費税の支払い義務は発生しません。
売上計上基準とは
売上計上基準は、企業会計原則や注解で制定されています。ここでは、輸出入取引における売上計上基準について詳しく見ていきます。
売上計上基準は実現主義
輸出入取引における売上計上基準は、実現主義です。
実現主義とは商品が購入された事実に加え、実際に現金を取得した時点で売上を計上することです。「出荷時」「納品時」「検収時」など任意の時期に、売上を計上します。
税務上の売上計上基準
税務上の売上計上基準は、法人税法基本通達第2章で以下のように定められています。
・棚卸資産:出荷日、検収日などの引き渡し日
・請負契約:商品または用役をすべて相手に引き渡した日
建設業における売上計上基準
建設業における売上計上基準は以下の通りです。契約内容や期末時の前後で変わるため、個別の確認が必要になります。
・工事が完成して目的物の引き渡しを行ったときに計上
・工事の一部が完成して目的物の引き渡しを行ったときに計上
・工事の売上高・売上原価をその事業年度終了時における工事の進捗割合に応じて、相手方にその部分の検収・引き渡しが完了が認められたときに計上
国際会計基準における売上計上基準
国際会計基準では、「売手が物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を買手に移転したこと」を売上計上基準としています。自社の輸出入取引がこれにあたるかどうかは、契約内容や取引状況などによって判断しましょう。
国際会計基準(IFRS)が適用された場合の製造業への影響
国際会計基準が適用されると、国内の業務システムなどに影響が出ることが考えられます。ここでは国際会計基準適用時の、売上計上基準への影響を見ていきましょう。
日本の会計基準との比較
日本の売上計上基準は実現主義ですが、国際会計基準では以下の条件全てを満たしたときが売上の計上時期となります。
・商品を保有することによる重要なリスクと経済価値が購入者に移転すること
・売却後の商品を継続的に保有していないこと
・受け取る金額を正確に測定できること
・売却によって利益を受けられる可能性が高いこと
・商品の原価を正確に測定できること
国際会計基準による売上計上基準のポイント
国際会計基準では商品の出荷時ではなく、通関や代金回収時点で売上を計上します。用役の場合は、サービスの提供状況に準じます。
国際会計基準適用後の業務システムのポイント
国際会計基準適用時は、以下の項目の見直しが必要です。
・取引先や仕入れ先との契約内容
・商品受け渡しや仕入時のデータを確認する仕組み
・複数構成商品の販売、仕入における区分処理
業種別の売上計上基準
ここでは、業種別の売上計上基準を見ていきます。
製造業
製造業の売上計上基準は、商品が購入者に引き渡された時です。場合によっては、出荷・納品・検収時点になることもあります。
不動産業
不動産業の売上計上基準は、購入者が土地や建物から利益を受けられるようになった時です。
請負契約
請負契約の売上計上は、「工事が完成して目的物の引き渡しを行ったとき」「工事の一部が完成して目的物の引き渡しを行ったとき」「工事の売上高・売上原価をその事業年度終了時における工事の進捗割合に応じて、相手方にその部分の検収・引き渡しが完了が認められたとき」に行われます。
売上計上基準は基本的に変更できない
売上計上基準は、いったん決めたら継続利用するのが基本です。ただし、契約内容や取引先・販売手法の変更など、正当な理由がある場合に限り変更可能です。
輸出入取引の売上計上基準
輸出入における売上計上基準について紹介します。
出荷基準
会社から商品が出荷された時点で売上を計上する方法です。決算日より出荷日時が早ければ、売掛金が未回収になった時点で、法人税の過払いが発生します。商品が相手に届かない状態で税金を払うことになるため、配送リスクや売掛金未回収リスクを抱えることになります。一番簡単な方法ですが、経理面のデメリットにも注意が必要な基準です。
通関基準
税関で輸出の手続きがなされた時点で売上を計上する方法です。輸出許可通知書の「申告年月日」や「許可年月日」が基準日です。
船積日基準
商品が船に積まれた時点で売上を計上する方法です。日本を出た時点が基準となるため、輸出入取引で一般的に利用されています。
船荷証券等作成日基準
商品が船に積まれたことを証明する「船荷証券」の作成日に売上を計上する方法です。船荷証券は商品を運ぶ船会社によって作成され、Bill of Lading(B/L)とも呼ばれています。
揚地条件受渡日基準
商品が相手先の国で陸揚げされた時に、売上を計上する方法です。陸揚げ時点を知ることが困難な反面、計上期間を延ばせるというメリットがあります。決算日前に売上を計上したくない時などにおすすめです。
到達基準
取引相手に、商品を納品した時点で売上を計上する基準です。納品書の受領印の日付が売上日になるので、取引の証拠として信頼性があります。
検収基準
取引相手が納品した商品の品質や種類、数量を、検収した時点で売上とする基準です。製造業者間の取引や、精密機械など試運転を必要とする場合によく使われます。
まとめ
輸出入取引における売上計上基準は、出荷・通関・船積日・船荷証券作成日・揚地条件受渡日になるのが一般的です。業種や国際会計基準などによって、最適な方法は異なります。それぞれの特徴と、自社の取引状況を比較検討して、自社に合った売上計上基準を設定してください。