「会社のホームを良いものにしたい…」と思うとき、顔写真を掲載するかどうか迷います。顔が見える会社のホームページなどのWebページや求人ページは信頼性を高める反面、目には見えないリスクがつきものです。自分の写真であれば自己判断で構いませんが、会社の従業員の顔写真の掲載でトラブルに発展することもあります。そのため、顔写真の掲載を強制するのは難しいです。
今回は、ホームページや広告などのネット上のWebページに顔写真を載せる効果と、それに付随するリスクについて紹介します。
企業のWebページに掲載される顔写真
顔写真が掲載されているWebページとは、企業のWebサイトで会社情報の関連ぺージに「代表取締役ごあいさつ」などとして社長の写真が掲載されていたり、美容室のホームページに「スタッフ紹介」などとして従業員が名前付きで紹介されているようなページのことです。
企業によって一切顔写真が使われていないホームページもあれば、社長のみが顔出ししている場合や従業員の集合写真が載せられている場合など、顔写真の使い方は企業によって様々です。
ホームページに顔写真を載せることの効果は?
会社のホームページに顔写真を入れることは、Webページを訪れたユーザーの注意を引く効果があり、『信頼感』や『安心感』を与えます。なぜ、ホームページで閲覧者の『信頼感』や『安心感』を獲得する必要があるのでしょう?
その理由の一つには、人に備わっている『新規探索性』が挙げられます。『新規探索性』とは、人は知らないものを警戒するという本能のことで、初めて利用する歯医者や美容室などのホームページを事前に検索するのは、情報を得ることで安心を得たいからなのです。
例えば、あなたがある会社のホームページを調べたとき、文字だけで構成された企業のWebサイトと代表や従業員の写真が掲載されている企業のWebサイトでは、後者の方が閲覧者により記憶に残り、安心感を持つばすです。
テキサス大学の研究では、人は顔写真からその人の外向性や親しみやすさなど様々な情報を読み取っていることがわかっています。企業の代表や従業員の顔写真が与える印象はその会社の印象と直結しているので、良い印象を与える顔写真は企業の信頼性を高める効果があります。
顔写真を掲載するリスク
名刺やインターネットに顔写真を掲載することは、必ずしも『安全』とは言い切れません。SNSの普及で誰もが気軽に情報を発信することができるようになり実名や顔写真を掲載している人も多いですが、自分の顔写真を掲載するリスクをしっかりと理解したうえで顔写真を掲載している人はどのくらいいるのでしょうか?
個人の名刺やブログなどのSNSは個人の判断となりますが、会社のホームページや広告に顔写真を掲載する場合は、個人のプライバシーやリスクをしっかりと考える必要があります。顔写真を掲載した際に考えられる危険について説明します。
個人が特定されるリスク
顔写真を掲載すると個人が特定されやすくなります。
写真と共に実名を公開している場合はその人の勤務先だけでなく、本人や本人と関わりがある人物が投稿したSNSやブログから拾った小さな情報を結び付けて、出身校から地元や実家が割り出せることがあり、本名を公開していなかったとしても知っている人が見れば、勤め先や所属部署などの情報が個人情報と結びついてしまいます。
会社のホームページに顔写真を載せるということは、自分と面識のない人にも個人情報を公開しているという意識を持つことが大切です。
Web上に投稿した顔写真は永久に残る
『デジタルタトゥー』という言葉を聞いたことはありませんか?「Webに投稿した画像や情報は永久に残る」というリスクを表した言葉です。
Webサイトに掲載した顔写真は閲覧者が簡単にコピペして保存することが可能です。中には他人の顔写真を悪用しようと考えている人がいたり、暇つぶしに笑いのネタとして顔写真を利用されるケースもあります。
会社の宣伝用にオススメした自社商品の紹介ページなどもそうですが、企業のホームページやブログで投稿したプライベートがわかる写真や発言までもが、投稿元が削除した後も本人が知り得ないところで投稿者の意思に関係なく残り続けてしまうというリスクをはらんでいます。
他人のアイコンなど宣材素材に使われる
赤の他人が自分の顔写真をプロフィール画像に使って、まるで本人かのように演じていたら…このような背筋が寒くなるような事態も実際に起こっています。本人が気づく範囲で顔写真が使われていることはごくまれで、本人が知らないところで利用され実害が出るまでわからないという場合も多いです。
たとえ、SNSで自分の顔写真を利用しているアイコンを見つけて『違反報告』をサービス提供元に報告しても1回報告したくらいでは何も起きません。「警察に行けば何とか犯人を捕まえてもらえる」と思っていたら大間違いで、警察は民事不介入です。肖像権の侵害を訴えるには自分の顔写真を使って成り済ました相手がわかり、弁護士を雇って訴える必要があります。
見知らぬ人から出会い系メールがくる
怖い話が続きますが、会社のホームページを閲覧して顔写真を見た不特定多数の人の中に、ストーカー気質の人物が混ざっていてもおかしくはありません。
リアルでも「気になる人や好きな人のことは知りたくなる」のが普通の心理ですが、ネット上になれば相手に知られずにストーキングすることができてしまいます。調べようと思えばスマホ一つで、対象者の名前と住所や電話番号だけでなく子どもの名前や通っている学校まで知られてしまうこともあります。
見知らぬ人から怪しいメールが届くのも怖いですが、自分の知らない誰かにストーキングされていては対処のしようがありません。直接ネット上に顔写真を載せることは、最悪の場合家族を巻き込んでしまうリスクもあることを肝に銘じておきましょう。
犯罪に悪用されることもある
会社のホームページに載せた顔写真が犯罪に悪用されるケースもあります。犯罪を目論んでいる人は自分の顔を表に出すことを避けるので、顔写真が必要な場合は他人の写真を利用する必要があります。そういった意味で顔写真は一定数の需要があります。
パソコンのみで他人の顔写真と偽名を使って詐欺を働く場合や、他人の写真を使ったアカウントで脅しをかけたりすることもできてしまうのが現状です。もし、自分の顔写真が犯罪に利用されていた場合には、警察の捜査が入ることもあります。犯罪にまでは至らなくても、誹謗中傷など迷惑を趣味としている人にカモフラージュ目的で自分の顔写真が使われることも考えられます。
実生活で恨み・妬みの対象となったときにキケン
顔写真で行為を持たれることもリスクですが、何も悪いことをしていなくても実生活で恨みを買ったり誰かから妬まれる可能性はあります。もしかすると、痴情のもつれで恨みを買うかもしれませんし、出世した時に会社の仲間から妬みの矛先を向けられるかもしれません。自分より幸せそうとか、仕事で強く怒鳴られたとか…人は、いとも簡単に恨みや妬みの感情を心に持ってしまうものです。
ネットに顔写真を上げることは簡単に個人情報をリサーチできてしまい、恨みを持った人間に仕返しの機会を与えてしまうかもしれません。このように、会社のホームページに顔写真を掲載することには、様々なリスクがあります。企業としてホームページなどに従業員に顔写真を掲載する場合は、このようなリスクがあることを前提に従業員に承諾を得る必要があります。
会社のホームページに顔写真を載せる効果
会社のホームページに顔写真を載せることはリスクが伴うことが考えられるものの、Webサイトの効果としては向上することも事実です。次は、会社のホームページに顔写真を載せることによる効果と顔写真を載せるべき条件について考えます。
アクセス数や問合せが増える
ホームページに顔写真を掲載する効果としては、やはり名刺のような役割になり注目を集めることができる点です。顔写真があることによってユーザーの閲覧時間が伸びたりアクセス数が増えるという効果があり、それに伴なって問い合わせ件数が増えるという嬉しい効果が期待できます。
これは、行動心理学に伴う効果で『精神的優位』といって、自分の情報を提供せず相手の情報を得ることで精神的に優位に立つことができ、警戒心が薄くなるという心の動きと、顔写真を何度も目にすることで、人は接触回数が多いほど好印象を受けやすくなるという『単純接触効果』が働くからです。全く知らない相手に連絡する場合と顔が想像できる相手に連絡する場合では、後者の方が確実に連絡するハードルを下げることができます。
社内のSNSや社内報で使用するアイコンは?顔写真の掲載は拒否したほうがいい?
社内SNSや社内報で顔写真を載せる理由としては、メッセージの発信者が誰なのかをわかりやすくするためです。それにより、名刺代わりにもなり社員同士でもスムーズにやりとりができるのです。
しかし、現状としてアニメのキャラクターやペットの画像をアイコンにする社員が多くいます。そのため、SNSの顔写真機能をうまく活用できているとは言えない状況です。
社内SNSや社内報はビジネスを目的として使用するため、名刺と同じ感覚で使用するほうがいいでしょう。
ホームページに顔写真を載せるメリットがある人は?
企業のホームページに顔写真を載せることでメリットが多いと思われる人は、企業の代表取締役となる社長や個人事業主です。顔写真から人柄を読み取る閲覧者に企業のトップの顔を見せることで起業に対しての信頼性は上がります。
逆に、従業員は顔出ししているのに企業のトップの顔がわからない会社は、従業員にリスクを背負わせるブラック企業であったり、何かしら顔出しできない理由があるのかと勘繰られ信頼性に欠ける印象を与えます。
さらに、有名人やインフルエンサーなどで自分の名前を売っていきたい人も、顔を出すことで仕事を依頼されるなどメリットを得られます。
ユーチューバーは提供する内容によって顔を出すのが良いか考えましょう。顔出ししていない人は、仮面をつけていたり似顔絵をアイコンにしていたりします。
サラリーマンで顔写真を載せた方が多くメリットを得られる場合は、士業や営業マン・美容師など個人で契約や指名を取る職業の人です。人目に付く場所に顔写真と共に自己の経歴やPRを記載していれば名刺のような役割になり、それを見た人が直接仕事を依頼してくれる可能性があるからです。
企業のホームページに顔写真を掲載するメリットが少ない人は?
企業のホームページに顔写真を掲載するメリットが少ないと考えられる人は、個人をアピールする必要がない会社の従業員といえるでしょう。また、個人成績が給料に直結する職種でも基本的に女性は男性よりも顔写真を掲載するリスクが高まってしまうのは否めません。
会社のホームページに顔写真を載せることを強要されたり、SNSのアカウントを育てて集客するにあたって「お店の宣伝だけでなく個人のプライベートを投稿したほうが良い」などと促されることがあっても、それで得をするのは会社を経営している側の人間だけであることを理解しておきましょう。
Webサイトや求人ページで顔写真を載せてアピールすることだけが業績をあげる手段ではありませんので、人材をアピールしたい場合はホームページや広告・名刺用に個人の似顔絵を作ってそれを掲載するなどの戦略を考えましょう。
社内SNSに最適な顔写真
顔写真だからといって、何を使用してもいいわけではありません。ここでは、社内SNSに最適な顔写真について解説します。
適度な距離で誰なのかわかりやすい写真
メッセージが送られた際に、誰から送られてきたのかがわかりやすい写真のほうがいいです。そのため、適度な距離で顔全体がわかる写真を使用しましょう。
特殊加工されているものや、顔が見えづらい写真は社内SNSで名刺のような役割として利用するには最適ではありません。自社の雰囲気をアピールできて、被写体が目立つような写真をおすすめします。
好印象な笑顔の写真
笑顔の写真は相手に好印象を与えられます。職場の人間関係を良好にさせたい場合におすすめです。また、自分の好きなことをしている様子を写真にすることで会話のネタにもなります。
笑顔の写真をうまく活用して、社員同士の良好な関係が作りやすい環境にしていきましょう。
顔写真の掲載を断られた時の対処法
ここまで読めば「顔写真を載せるくらい良いのではないか?」と安易に考えていた人も、顔写真を掲載することをデメリットとメリットの両面から理解してください。では、実際に「会社のホームページに従業員の顔写真を載せたい!」と提案した際に、従業員が首を縦に振ってくれない、ホームページに載りたくないと言う…という拒否された場合の選択肢を見ていきましょう。
勝手に従業員の顔写真を掲載する
他人の写真を本人の承諾なしに勝手にネット上にアップロードすることは『肖像権の侵害』に当たり訴えられる可能性があります。『肖像権』ときくと有名人だけが持つものと思われる人もいるかもしれませんが、肖像権における『プライバシー権』は一般人にも該当します。『プライバシー権』は、自分の肖像や名前をみだりに知られないようにする権利です。
本人と明確にわかる画像や動画を本人が載りたくないと拒否しているのに、承諾なしに不特定多数の人目に付く場所へ投稿した場合には、肖像権を侵害された側はその対処として問題の投稿を削除請求したり、民事裁判にて損害賠償を請求できるということです。従業員を守る立場にある経営者はもちろん、企業のWeb担当者が従業員の顔写真を勝手に掲載することは、逮捕こそされないものの損害を被ることがあると心得ておきましょう。
従業員を説得する
従業員の顔写真を掲載したいときは、顔写真を載せる理由を説明する必要があります。掲載することで得られるメリットだけでなく、写真を掲載した本人が退職した後の顔写真と個人の情報に関する取扱い方、考えられるリスクやトラブルがあったときの対処はどのようにするのか、といった点を十分に話し合う必要があります。
説得という名の強要は、パワハラに当たるので説得の仕方には注意が必要です。拒否した従業員に「業務の一部としてやるべき」と強制したり、「やらないと査定に響く」などといって承諾を得るやり方は、訴訟の種をつくるだけでなく育てた従業員を失う可能性があるなど、その後自分に返ってくるかもしれないリスクを考えれば得策ではありません。
承諾を得た人だけ顔写真を掲載する
顔写真の掲載は会社が守り切れないような事態が発生する可能性があるので、それを理解したうえで承諾を得られる人の顔写真だけを使うというやり方が、一番円滑にホームページへの顔写真の掲載を進められる方法です。承諾をした人は、ホームページに顔写真が乗ることで名が知れたり、顧客の不安を払拭できてスムーズに契約に結び付き仕事の成果が得られやすくなるという効果を得られ、承諾しなかった人も個人のプライバシーを守ることができ、安心して業務に取り組むことができるでしょう。
ホームページにはたくさんの人の顔写真を載せれば良いというわけでもありません。社長など、経営陣の顔写真を工夫して掲載するだけでも会社のWebサイトの信頼性は上がります。
顔写真以外の方法を考える
顔写真の掲載はできないけれど、何かしらの方法で安心感や親しみやすさをアピールしたいなら、似顔絵を作るという方法がオススメです。
実物を見たことがある人が特定できる程度の似顔絵で、従業員をキャラクター化してホームページに紹介します。本名を使わずにあだ名で紹介し、経歴や自己紹介文は個人を特定されない範囲でPRすることも可能です。似顔絵を依頼するのに多少費用は掛かりますが、身を守りながら世間に向けてアピールすることができます。
顔写真の掲載を取りやめる
顔写真を載せるということに抵抗を感じて拒否する人もいれば、全く抵抗がない人もいますがそれに付随するリスクを考えれば、顔写真を掲載するかどうかは個人の責任で選択すべきことだといえます。企画案を提示して社内の反応が悪かったり、掲載する人と拒否する人との意見の相違で社内の雰囲気が悪くなるようであれば、企画を白紙に戻すことも一つの方法です。顔写真の掲載はアクセス数を増やし業績を上げるための地策なので、社内で必要性を再検討し重要度が低いと判断されれば、思い切って取りやめる方が良い時もあります。
無断転載をチェックする方法
会社のホームページに使用した写真が無断で他人に利用されていないかを調べる方法があります。多少手間はかかりますが、定期的に会社のホームページに掲載している顔写真が勝手に使われていないかをチェックするという姿勢を見せることで、頑なに顔写真を載せることを拒否していた人の態度を軟化されることができるかもしれません。
顔写真が他のサイトに利用されているかどうかを調べる方法は、Google画像検索機能を使います。検索ボックスに画像のURLを張り付け検索すれば、その写真が使われているWebサイトを調べることができます。
肖像権使用同意書
仮に、従業員の承諾を得ていたとしても承諾の具体的な内容を決めないままでは、会社側が承諾を得たと思っている内容と従業員が承諾をしたと思っている内容にズレが生じます。
例えば、自己紹介用に使うという用途で承諾を得て、ホームページに掲載した従業員の顔写真をほかの広告に使いまわしたり、退職した人の顔写真を何年も掲載したままにすることでトラブルになるケースがあります。
そのズレを後々になってトラブルに発展させないためにも、顔写真を掲載する際には承諾の内容を明記した『肖像権使用同意書』を書いてもらう方が良いでしょう。
顔写真の使用は強制することはできない
社内SNSや社内報で顔写真を使うことは強制できるものではありません。どうしても使用して欲しい場合は、社員に納得してもらうしかないのです。
社員の許可なく顔写真を載せてしまうと、会社の評判が悪くなる原因となります。そうなれば、社内SNSを使うのは難しくなってしまいます。また、個人情報保護の観点からも強制するのはおすすめしません。
このように、社内SNSで顔写真を使う場合は、しっかりと使用目的を伝えて、社員の同意を得る必要があります。
まとめ
ユーザーのネットリテラシーが上がってきている昨今では、顔出しすることの危険性を理解してる人も増えてきています。そんな中、むやみに従業員の顔写真を掲載している企業ホームページがあれば、逆にパワハラやブラック企業を想像されてしまうこともあるかもしれません。
この記事では、会社のホームページに顔写真を載せることの効果だけでなく、目に見えにくいリスクについても紹介してきました。リスクを踏まえたうえで顔写真は掲載するべきか?掲載するとしたら誰の写真を使うべきか?を考えることが、本当の意味で会社のホームページや求人ページの信頼性を上げることに繋がります。