近年、お酒を海外から輸入して販売する人が増えています。お酒好きの方であれば「自分もやってみようかな」と思われるかもしれません。しかし、お酒の輸入をするにはさまざまな手続きが必要になる上に、関税をはじめとする税金も絡んできます。
そこでこの記事では、お酒の輸入販売について広く解説しようと思います。お酒の輸入に必要な免許だけでなく、その手続や税金など、総合的に解説していきますので、お酒の輸入販売を計画している人は是非参考にしてください。
なお、個人的消費目的でお酒を輸入する場合についても適宜触れていきます。
輸入するお酒を決める方法
お酒を輸入販売するのであれば、どんなお酒が売れるのか、儲けが出るのかを考えなければいけません。
この項目では、輸入すべきお酒を決める方法について解説します。
どんなお酒が売れているのかを調べる
これはお酒を売る場合に限りませんが、物販ビジネスでは「どんな商品が売れているのか」をリサーチすることが極めて重要です。
売れ筋商品を知る最も簡単な方法は、Amazonや楽天市場のランキングをチェックすることです。どんなお酒がランキング上位に入っているのかをチェックするとともに、レビューもチェックして、そのお酒の人気の秘訣を把握しておきましょう。
貿易統計の情報も参考にできる
財務省貿易統計の情報も参考になります。貿易統計は財務省が発表しているもので、品目や国ごとに輸出入された貨物の金額や数量がまとめられています。
この統計を確認すれば、どんな国からどんなお酒が輸入されているかがわかります。Amazonや楽天市場で売れ筋のお酒を見つけたら、今度は貿易統計を調べてそれがどの国から輸入されているかを知れば、仕入れ先が探しやすくなります。
ご覧いただけばわかりますが、品目表にある統計番号で検索できるようになっています。検索方法がわからないときは、ページの右の方に「検索機能の使い方」へのリンクがありますので、そちらを参照してください。
お酒を販売するために必要な手続
輸入したお酒を販売するための手続は、大きく2つに分けることができます。一つは、お酒を国内に輸入するために必要な許可を得るための手続です。そしてもう一つは、そのお酒を店舗やインターネットで販売をするための手続です。この項目では、お酒を販売するための手続について解説します。
お酒の販売は、酒税を徴収する必要から免許制が取られています。したがって、お酒は販売免許を取得しない限り販売することができません。
輸入したお酒を販売する際に必要となる免許としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 一般酒類小売業免許
- 通信販売酒類小売業免許
- 輸出入酒類卸売業免許
前の2つは小売業を営むために、後者は卸売業を営むためにそれぞれ必要です。
なお、飲食店を経営している人が自身のお店でお客様にお酒を提供する場合は、販売免許は必要ありません。ただし、お客様に持ち帰ってもらうお酒を販売する場合は、免許が必要になります。
免許の申請は税務署で行う
前述の通り、酒類の販売が免許制になっているのは酒税を確実に徴収するためです。そのため、免許の申請先は税務署となっています。
申請書類の提出先は、販売地の所在地を管轄する税務署です。申請にあたっては、希望する免許の種類によって提出書類が異なるので注意してください。
販売免許の取得にあたっては審査があります。酒税の納付を確実に行える能力があるか、経営は安定しているか、販売場所は確保されているかなどが審査されます。原則として2ヶ月以内に審査結果が明らかになります。
販売業免許の申請の詳細については、酒類の販売業免許の申請のページを参照してください。
手数料はかからないが、登録免許税の納付が必要
酒類の販売免許を申請するだけなら、手数料はかかりません。しかし、免許が付与される際に登録免許税の支払いが必要になります。具体的な金額は以下の通りです。
お酒を販売する際に必要な免許の種類
前述の通り、お酒を輸入販売するために必要になる免許には3種類あります。
小売業免許としての「一般酒類小売業免許」と「通信販売酒類小売業免許」、卸売業免許としての「輸出入酒類卸売業免許」の計3つです。
以上3つの免許から自分が展開しようとしているビジネスに合ったものを選んで、申請を行うことになります。
輸出入酒類卸売業免許
卸売業免許とあることからも分かるように、この免許では消費者に直接お酒を販売することはできません。他の卸売業者や小売店に対してお酒を卸売りするための免許となります。
卸売業免許は扱うお酒によって免許が分かれていて、輸出入酒類卸売業免許は輸入酒を扱うための免許です。全酒類卸売業免許という全てのお酒の卸売りができる免許もあります。
通信販売酒類小売業免許
お酒をネットやカタログを通じて通信販売するために必要な免許です。したがって、実店舗を構えてそこでお酒を売ることはできません。
この免許を取得すれば、一般消費者に対して販売できるようになりますが、他の酒類販売業者に対する卸売りはできません。
一般酒類小売業免許
こちらは、通信販売ができない免許です。しかし、店舗販売は可能となるので、自分が経営するショップでお酒を販売することができます。仕入れたお酒を飲食店などに販売することもできます。
販売免許は販売場ごとに必要なので、本店で酒類を販売している事業者が支店でも販売を始める場合は、支店の住所地を管轄する税務署に別途申請する必要があります。
お酒を輸入するために必要な手続
次に、お酒を輸入して販売するために必要な手続のうち、お酒の輸入に関する手続について解説します。
特に手続が必要ない場合
個人が自分用のお酒を輸入する場合は、特に届出等の手続は必要ありません。
ただし、「輸入する総量が10kg以下であること」といった条件が定められている点にはご注意ください。輸入総量が10kgを超えるような場合は、個人使用目的ではないと判断される可能性があります。
また、お酒を輸入する場合は酒税だけでなく、一般の貨物と同様に関税、消費税もかかります。関税と消費税は課税価格の合計が1万円以下であれば免税されますが、酒税は免除されません。
ただし、海外旅行者が携帯品あるいは別送品として国内に持ち込む場合は、関税・消費税・酒税がすべて免税になる場合があります。具体的には、760ml程度のボトル3本以内となっています。
届出が必要になる場合
販売目的で酒類を輸入するには、「食品等輸入届出書」の提出も必要です。提出先は、貨物の輸入先となる場所を管轄する検疫所です。
自分が経営する飲食店でお客様にお酒を出す場合であって、その場で飲んでもらうものを提供する限りは販売には当たりません。しかし、この場合でも販売する際と同様に、検疫所に「食品等輸入届出書」を提出する必要はあります。
食品衛生法に基づく輸入手続の概略
食品等輸入届出書について定めているのは、食品衛生法です。お酒を輸入するにあたっては、単に届出をすればいいというものではなく、同時に提出しなければならない関係書類があったりもします。そこで、輸入手続の概略をチェックしておきましょう。
まずは、届出に必要な書類を準備します。食品等輸入届出書は必ず必要になります。それ以外の関係書類は必要に応じて準備することになります。例えば、原材料及び製造工程に関する説明書などです。
輸入貨物が到着したら、検疫所に届け出ます。検疫所では食品衛生監視員が、提出された書類を基に検査の必要性を審査します。
検査の必要なしと判断された場合は、食品等輸入届出済証が交付されます。検査が実施された結果、問題ないと判断された場合も同様です。
上記の内容の詳細は、厚生労働省の食品衛生法に基づく輸入手続のページでご確認ください。
お酒を輸入販売する際の関係法令について
この項目では、お酒を輸入販売する際の関係法令について、重複を厭わずその主なものに関してまとめました。
なお、アルコール事業法という法律がありますが、これは飲用するお酒を対象とした法律ではありません。工業用アルコールに関して規制している法律です。
お酒の輸入に関わる食品衛生法
お酒を輸入する際のルールに関して規定しているのが食品衛生法です。前述したように、お酒を輸入する際には、食品等輸入届出書や関係書類を提出して、食品等輸入届出済証の交付を受ける必要があります。個人で飲むお酒を輸入する場合は、届出は不要です。
お酒の販売に関わる酒税法
お酒を販売する際は、前述の通り、ビジネススタイルに応じた販売免許が必要になります。この酒類の販売免許制について規律しているのが酒税法です。
なお、この記事では取り上げませんが、酒類の販売を代理したり媒介したりする場合には、酒類販売代理業免許あるいは酒類販売媒介業免許というものが必要になります。およそお酒の販売に関わる場合は免許が必要になるということです。
その他の法令
他にもお酒の輸入販売に関わる法律はあります。
例えば、お酒の表示に関する規制については、酒税の保全および酒類業組合等に関する法律という法律があります。具体的な規定は、この法律の施行規則11条の3にあります。また、食品表示法による規制も受けます。
また、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)による規制も受けます。リサイクルに関係して、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)による規制も受けます。
酒類の表示に関する規制
輸入したお酒を販売する場合、表示に関する規制も受けます。
輸入されたワインやウイスキーの容器に日本語で酒類の品目などが記載されているのを見たことがあると思います。あのような表示がなされているのは、この規制があるためです。
売り場にも表示が必要
酒類の表示に関する規制は、容器や包装だけでなく陳列場所にも及び、陳列場所には酒類の売り場であることの表示が求められます。20歳以上であることが確認できない場合は販売しない旨も記載しなければなりません。加えて、他の商品の売り場と明確に区別するための表示も求められます。
酒類の容器への表示について
輸入者には、輸入した酒類を保税地域(輸入許可が下りていない貨物を関税の徴収を一時保留して蔵置する場所のこと)から引き取る前に、品目等を表示するよう義務付けられています。
具体的には、輸入者の氏名または名称、住所などの他、お酒の内容量や品目、アルコール分、添加物などです。未成年者の飲酒防止に関する表示を含める必要もあります。
これらの事項を記入した表示証を作成して、表示方法届出書に記入、あるいは作成したシールや版下を届出書に張り付けて税関に提出します。
届出書は、原本と交付用の2通を作成します。交付用は確認後、返却されますから大切に保管しておきましょう。確認を受けた表示方法届書は全国の税関で有効です。なお、届書提出時には、酒類販売業免許証の写しも併せて提出してください。
酒類の表示に関する詳細は、国税庁のページを確認してください。
また、東京税関にも品目別の通関手続き等のご案内(お酒)というこれらに関連するページがありますので、一読しておくことをお勧めします。
お酒の輸入販売に関わるその他の法令
お酒の輸入販売には、景表法や資源有効活用法、容器包装リサイクル法などの法令も関わってきます。
不当表示などを防止する景表法と公正競争規約
景表法は、消費者に誤認されるおそれのある虚偽表示・誇大表示などを規制する法律です。輸入酒も、この法律の規制を受けます。
そして、酒類に関しては、各業界団体が公正競争規約を策定しています。公正競争規約は、業界団体が自主的に定めたものではありますが、公正取引委員会の認定を受けたものです。
輸入酒に関係が深い公正競争規約としては、日本洋酒輸入協会による輸入ビールの表示に関するもの、輸入ウイスキーの表示に関するものなどがあります。
資源有効利用法と容器包装リサイクル法
リサイクル関係の法律も輸入酒を規制対象としています。資源有効活用法は、スチール缶、アルミ缶などに分別回収促進のための表示を義務付けています。
また、容器回収リサイクル法の特定事業者に当たる場合は、容器の再商品化が義務付けられます。
お酒を輸入販売するに際しての手続に関してのまとめ
この項目では、当記事でご紹介した内容を簡単にまとめました。お酒を輸入販売する際に必要な手続を手短に確認したいときは、当項目を読んでいただければ一通りのことは分かるはずです。
自分で飲むお酒を輸入する場合は手続不要
自分で飲むお酒を輸入する場合は、特に届出などは必要ありません。もっとも、課税価格が1万円を超えると関税や消費税がかかります。
酒税に関しては、上記の場合も免除されません。ただし、1本760mlのお酒3本までで、かつ携行品・別送品として輸入する場合は酒税も免除されます。
飲食店でお客に飲ませる場合は、輸入時の届出のみ必要
飲食店でお客に飲ませるだけなら、酒類の販売業免許は必要ありません。ただし、検疫所に食品等輸入届出書を提出する必要はあります。
お酒を販売する場合は、販売業免許が必要
輸入したお酒を販売する場合に食品等輸入届出書が必要になるのは、上記と同じです。保税地域からお酒を引き取る前に容器に貼る表示の内容を税関長に届け出る必要があります。
輸入したお酒を販売するには、酒類の販売業免許が必要です。自分のビジネスに合った免許を事前に取得しておきましょう。
酒類にかかる酒税は、どんなお酒でも同じというわけにはいきません。お酒の品目によって細かく税率が変わります。主な酒税の税率は以下の通りです。
参考:3105 酒類の輸入について(カスタムスアンサー) 税関 Japan Customs
正しい知識を身につけてお酒を輸入販売しよう
この記事でご紹介してきた通り、お酒を輸入販売するためには、いくつかの手続きを踏まなくてはなりません。最初は面倒に感じるかもしれませんが、避けて通ることはできないものです。
ぜひ、こちらの記事でご紹介した内容を参考にしつつ、お酒を輸入していただければと思います。