輸出事業者は消費税の確定申告をすると払いすぎた消費税が還付される場合があります。ただ、この還付金制度についてご存じない方は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、消費税還付手続きについて解説します。こちらの記事を読んで今後の輸出事業に役立ててください。
消費税とは?
まず日本の消費税の仕組みについて説明します。
消費税(納税)の仕組み
消費税とは、消費者が商品・サービスを購入した際に発生する標準税率10%(2021年3月時点)の税金と、お酒や外食を除いた飲食料品や、定期購買契約され週に2回以上発行される新聞に発生する軽減税率8%(2021年3月時点)の税金のことです。本来消費税の納付義務があるのは消費者です。しかし、消費者一人ひとりが各自で納税するのでは手間がかかってしまうため、日本では商品・サービスを販売している事業者が消費者から消費税に相当する金額を預かり、後でまとめて納付することになっています。
事業者が支払う消費税
しかし、事業者も仕入れや外注などで取引先に消費税を支払っています。そこで、事業者は消費者から預かった消費税額から仕入先・外注先に支払った消費税額を引いた差額を納付すれば良いことになっています。
赤字の場合は消費税が還付される
消費者から預かった消費税額よりも、仕入れ先や外注先に支払った消費税額の方が多かった場合、事業者は余分に支払った消費税の還付を受けることができます。
輸出事業者の消費税還付
ここでは、輸出事業者へ消費税が還付される仕組みについて説明します。
輸出消費税還付の仕組み
消費税は物やサービスを消費したことに対する課税なので、本来は消費者が負担すべき税金です。しかし、海外輸出の場合は消費者が海外にいるため、消費税を消費者から徴収することができません。
その一方で、輸出事業者は国内で商品を仕入れる際に消費税を支払っています。このままだと、消費者でない輸出事業者が消費税を負担することになってしまいます。これは消費税の趣旨に反します。そこで、輸出事業者が自己負担した消費税相当額は返還される仕組みになっており、これが消費税還付と呼ばれるものです。
輸出事業者が消費税還付を受けるには2つの条件があります。
国外取引
1つ目の条件は、国外取引であることです。
日本人や日本企業相手の取引でも、取引相手が国外にいれば「国外取引」となるため、消費税還付を受けることができます。
しかし、外国人や海外の企業を相手に取引をしていても、取引相手が国内にいる場合は「国内取引」とみなされます。
輸出免税取引
2つ目の条件は、輸出免税取引であることです。以下のような取引であれば輸出免税取引に該当します。
1.日本から海外への一般的な輸出
2.外国貨物の譲渡・レンタル
3.外国貨物等にかかる運送・保管などのサービス提供
4.国際配送・通信サービスの提供
5.外航船舶等の譲渡・レンタル・修理サービスの提供
6.日本に住所を持たない訪日外国人への販売
消費税が還付されないケース
輸出業をしていても、以下のケースでは消費税還付を受けることができません。
免税事業者
日本では消費税の納税義務を負うのは、2年前の売上が1,000万円以上の事業者だけです。2年前の売上が1,000万円未満の場合は、消費税納付の義務がない「免税事業者」となります。
免税事業者は課税対象者でないため、消費税還付を受ける権利もありません。
しかし、2年前の売上が1,000万円未満の事業者でも消費税還付を受ける方法はあります。それは課税事業者になることです。自ら申告して消費税を納めれば課税事業者になることはできます。課税事業者になれば、売上額が1,000万円未満でも消費税の還付を受けられるようになります。
ただし、輸出業の他に国内販売やアフィリエイトでの売上がある場合は注意が必要です。
輸出業の仕入れで支払った消費税額より国内販売・アフィリエイトで預かった消費税額の方が多い場合は、課税事業者になると逆に消費税を納めなければいけなくなります。国内取引がある場合は、よく計算してから判断してください。
簡易課税を採用している
簡易課税とは、みなし仕入率を用いて仕入れ控除額を簡易に計算した上で、納付する消費税額を計算する課税方式です。
簡易課税を採用することで消費税を削減できる場合はありますが、その代わり消費税還付は受けられなくなります。
消費税還付を受けるメリット・デメリット
ここからは、消費税還付のメリットとデメリットを紹介します。
お金が還ってくる
消費税還付を受けるメリットは、やはりお金が還ってくることです。還付金額は消費税率によって決まります。今後は消費税率がさらに上がるため、還付金額もどんどん増えていきます。
税務調査官が来る確率が上がる
ただし、消費税還付を受けると税務調査が入る確率が高まります。税務調査官は予告なしに突然来る場合も多いため、いつ来られても良いように必要な書類を用意しておく必要があります。これが消費税還付の最大のデメリットです。
キャッシュフローが悪い
消費税の還付は基本的に1年に1回まとめて行われるため、キャッシュフローは悪いと言えます。
ただし、消費税の負担が大きい場合は、課税期間を短縮することで1ヶ月ごと、もしくは3ヶ月ごとに消費税の還付を受けることも可能です。
管轄の税務署に「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を提出すれば、課税期間を短縮することができます。
課税事業者になる方法
前述の通り、消費税還付を受けるには、まず課税事業者になる必要があります。
消費税課税事業者選択届出書
まずは最寄りの税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出してください。
ただし、提出してすぐに課税事業者になるわけではありません。課税事業者になれるのは提出した日の含まれる事業年度の次の年度からです。
税理士に相談
消費税課税事業者選択届出書の書き方や還付手続きでわからないことがある場合は、税理士に相談しましょう。
消費税還付はかなりの額に上るため、税理士を雇ってもプラスになることの方が多いです。
輸出以外で売上がある場合は注意
ただし、前述したとおり、輸出業の他に国内販売やアフィリエイトでの売上がある場合は注意が必要です。
課税事業者になってしまうと、輸出業の仕入れで支払った消費税額より国内販売・アフィリエイトで預かった消費税額の方が多い場合は、消費税を納めなければいけなくなります。
国内取引がある場合は、よく計算してから消費税課税事業者選択届出書を提出してください。
消費税の還付手続き
消費税の確定申告を行えば、消費税の還付を受けることができます。
消費税確定申告に必要な書類は以下のとおりです。
消費税の確定申告に必要な基本書類
海外輸出をしている場合は、事業形態に関わらず以下の書類が必要です。
・輸出証明書か、税関の輸出証明書(少額の場合は国際スピード郵便EMSの控え)
・科目別消費税額明細書
・輸出売上の総勘定元帳
・輸出代金入金の預金通帳コピー
・輸出売買契約書、納品書、請求書
・国内仕入れの請求書、領収証
個人輸出専門業者の場合
また、個人輸出専門事業者の場合は以下の書類も必要です。
・課税期間分の消費税、地方消費税の確定申告書
・課税売上割合
・控除対象仕入税額等の計算書
ただし、輸出業と国内販売を並行している事業者は、課税期間分の消費税・地方消費税の確定申告書のみで問題ありません。
輸出免税証明書類
また、輸出免税取引を証明するためにも別途書類が必要です。
20万円以下の商品を輸出した場合はその事案を記載した帳簿か、郵便物受領証が、20万円を超える商品を輸出した場合は輸出証明書か税関長の輸出許可書が証明書類となります。
会計処理の注意点
消費税還付を受けるには、日々の帳簿の作成や会計処理に注意が必要です。
税抜処理
消費税還付を受ける場合は、税抜処理が基本です。税抜処理であれば、仮払消費税と仮受消費税の差額が還付額となるので、帳簿を見るだけでどれくらい還付を受けられるのかが分かります。
税込処理は要注意
税込処理をしている場合は、消費税を支払ったときには経費に、還付されたときには利益になります。還付金に課税されないように別途処理が必要になります。
書類管理
また、税務調査がいつ入っても良いように、明細書や証明書などの書類は大切に管理しておきましょう。
消費税還付を受けないと損
輸出業での利益が大きい人は、課税事業者となって確定申告をすれば消費税の還付を受けることができます。ただし、消費税還付を受けると税務調査官が来る可能性が高まりますので、ご注意ください。