大企業に就職すると「これで将来安泰だね」という言葉も耳にしますが、本当に大企業は安定しているのでしょうか?
この世に絶対的な安定は存在しません。今回は大企業へ入れば安定が手に入るという考え方の危険性についてお話しします。
安定は企業に与えられるものではなく自分で獲得するもの
まず大前提としてお伝えしたいのは、「企業が安定していることと雇用が安定していることは別物である」ということです。
皆さんが職に求める安定とは、リストラ等に遭うことなく給与を得続けることだと思います。つまり「雇用の安定」です。しかし、同じ会社に雇用され続けることが本当に安定と言えるのでしょうか?
実際のところ、雇用の安定は、自社からも他社からも求められる人材であり続けることで実現します。しかし、ただ企業に在籍していさえすれば求められる人材になれるわけではありません。自分で自分の価値を高めることではじめて有為な人材となり、結果として雇用の安定に繋がるのです。
では、自分の価値を高めるにはどうすればよいのでしょうか?
その具体的な方法をこれから見ていきましょう。
【1】自分の職務経歴書を見直す
転職活動をしたことがある方であれば、職務経歴書を作成した経験があると思います。職務経歴書は、自分がこれまでどのような職に携わってきたか、どんな結果を残したか、何ができるのかを記したもので、転職活動に必須の書類です。
しかし、この職務経歴書、転職時に初めて作るのではなく、在職している段階から定期的に作って見直すことこそが重要です。なぜなら、職務経歴書を作ることで、今在籍している会社での自分の成果を振り返る良いきっかけになるからです。職務経歴書にこれといって書くことが無いようであれば、自分の働き方、仕事の取り組み方を変える必要があるということです。職務経歴書に書く内容が無い人は、当然求められる人材とは言えません。
【2】人脈を広げる
社内はもちろん、社外での人脈づくりも非常に重要です。
ただ、名刺交換をしただけの人のことを人脈とは言いません。自分が結果を残したことで得た繋がりを人脈と呼びます。
最近は自社の社員に人材を紹介してもらう「リファラル採用」が増えています。もしあなたが転職をする事になった際に、前職で得た人脈で次の就職先が決まる可能性があるのです。しかし、ただ企業に在籍しているだけでは人脈は得られません。結果をしっかり残す必要があります。
【3】セルフブランディングをする
セルフブランディングとは文字通り「自己をブランド化する」ことです。自分の価値を社会の中で特定化することでビジネスチャンスを広げるマーケティング術です。
セルフブランディングをするには、自分の仕事のレベルを高める必要があります。自分の印象を良く見せるために、できないことをあたかもできるように見せるのがセルフブランディングではありません。何を求められているのかをよく理解したうえで自分の実力を伝えなければいけません。そのためには自分の仕事のレベルを上げる必要があることが分かります。
ソニー創業者の一人である井深大氏の「仕事の報酬は仕事」という名言があります。良い仕事をすると、さらに面白い仕事が回ってくるという意味です。今ある仕事で成果を出せば、さらに良い仕事を任せてもらえるようになります。そうなると、自社にとってはいてもらわないと困る人材となり、他社からはぜひとも来てほしい人材になります。
こうして求められる人材になることで雇用の安定に繋がるのです。
大企業であぐらをかいていては危険!?
大企業に入ると将来安泰という考えはどこから生まれたのでしょう?答えは、年功序列の終身雇用システムです。このシステムの下では、最初は給料が少なくても、10年、20年、30年と長く勤めれば勤めるほど給料が上がっていき、退職時にもたくさんの退職金が貰えます。
しかし、現在、このシステムは疑問視されており、大企業だから安定していると思っていては危険です。ここでは大企業だからこそのリスクについてお話しします。
他社でも活かせるスキルが身につかない
大企業に限った話ではありませんが、各企業にはその企業特有のスキルがあります。しかし、このようなスキルはその会社でのみ使えるもので、他業種どころか同業他社ですら通用しない独自のものである場合が少なくありません。ひとつの企業に長年在籍していればこの手のスキルは身につくでしょうが、それで満足していては汎用性のあるスキルは身につきません。
現在は転職してスキルアップ、キャリアアップが当然の時代です。いざ転職しようと思っても、他社でも通用するスキルが身についていなければ、希望する職に転じることは難しいでしょう。
人事異動で退職に追い込まれることもある
大企業に勤めていると、企業の組織改変で別の部署へ異動させられることは珍しくありません。
例えば、ずっと技術職として勤めてきたのに、突然営業部に異動させられることもあるのです。入社して年数の浅い若手社員ならそれでも良いでしょう。しかし、20年、30年も勤めた後に異動させられ、自身が望んでいない部署で全く新しいことを覚えるのは大変です。
望まない異動の末に退職するということは、実は珍しくありません。大企業では自分の希望も通りにくく、人事次第で自分の人生が変わることがあるのです。
安定していると思っていた給料が減る!?
大企業に入っていれば年功序列のおかげで給料が歳とともに上がっていくと考え、若いうちに車や家のローンを組む人は少なくありません。
しかし、経営合理化を名目に管理職の給料が下げられた例もあります。最近では、一定の年齢に達した人は管理職から外す「役職定年化」も多くなってきています。順調に上がると思っていた給料が突然下がったことでローンの支払いに支障が出たり、生活が苦しくなったりと、人生設計が狂う可能性があることも覚えておかなければいけません。
分社化で一気に不安定な生活へ
経営が不安定になると、会社の生き残りのために一部の事業を売却して分社化することがあります。不採算部門を組織から切り分けて独立の子会社を設立したりするのです。
この分社化によって、それまで安定していた生活が急に不安定になることも考えられます。
安定が存在しないのはなぜか
今までのお話しで、大企業に入れば安定が手に入るとは必ずしも言えないことがお分かりいただけたかと思います。
では、なぜ大企業での安定は存在しないのでしょう?
金銭的安定と精神的安定は違う
まず仕事における安定には「金銭的安定」と「精神的安定」があります。
「金銭的安定」とは、文字通り、経済的にゆとりがある、または生活に困らない程度の収入があるということです。
「精神的安定」とは、簡単に言うとストレスのない状態のことです。
多くの場合、仕事における安定では「金銭的安定」を考えると思いますが、金銭的に安定している仕事が必ずしも精神的安定を得られる仕事とは限りません。
最近では、ストレスによる鬱が原因で退職という話もよく聞きます。金銭的安定を得るための仕事で精神的に不安定になって退職してしまっては、もともとあったはずの金銭的安定までも失ってしまいます。
転職での市場価値が低い
先程もお話ししましたが、大企業で得たキャリアは価値が低いです。
転職の際には、市場価値(社会的需要)のあるスキルを自分が持っているかが重要です。
例えば、大企業で20年勤めたけれど実践的なスキルは持っていない40歳より、中小企業でも実務経験を積んだ30歳の方が企業としては望ましい人材です。自分にはどんな能力があり、それをどう活かせるかを見極めることが転職の際には重要です。ただ大企業にいましたという経歴だけで良い転職は望めません。
明日何があるかは分からない
明日何が起こるかは誰にも分かりません。
自分が事故にあって働けなくなるかもしれませんし、家族が病気になって入院や手術が必要になるかもしれません。仮に、1,000万円の貯金があっても治療に500万円必要となれば、一気に資産が半分になってしまいます。
給料のうち一定額を貯金に回し、その資金を使って子供を私立の学校に入れようと思っていたのに、急に給料が減って予定が狂うなんてこともザラに起こります。
最悪の場合、会社が倒産したり、リストラに遭ったりする可能性もゼロではありません。
未来に何が起こるかは本当に分かりません。余裕のある生活を送っていたのに、急に生活が苦しくなることだって十分あるのです。
大企業へ就職するリスク
給料は高い、福利厚生もしっかりしている、周りからの評判も良い。一見すると大企業は魅力的ですが、大企業だからこそのリスクも理解しておきましょう。
平気でリストラする
いくら大企業だといっても、絶対に倒産しないなんてことはありません。倒産まではなくても、業績不振でリストラに踏み切る可能性は十分あります。
実際、2019年も大規模なリストラを行った大企業がありました。
・みずほ銀行…早期退職を募集。50歳~63歳の社員のうち1,100人が対象となった。
・三井E&S…1,000人の人員削減を実行。
・セブン&アイHD…3,000人の人員削減方針を発表。
大企業ほど、社員よりも会社を守るために大規模なリストラを行うものなのです。
安定志向は身を滅ぼす?
大企業に入ったら安定して昇給できると考えていては大間違いです。
戦後の日本は、終身雇用の下、スキルより社歴を重視した考え方が一般的でした。その結果、「窓際族」と呼ばれる社員も増加しました。以前であれば、このような社員を雇っていてもやっていけたのでしょうが、バブル崩壊後は難しくなってきました。
日本の法律は労働者を守るようにできているのでクビにはできませんが、退職金の加算や転職支援を提案して自主退職へ持って行くことがあります。
安定した生活をするには
最初にお話ししたように雇用の安定を得るためには、自分の価値を高めて求められる人材にならなければいけません。そのために必要なことが3つあります。
【1】絶対的安定は無いと理解する
今までお伝えしてきた通り、絶対的安定はないことを理解しましょう。大企業に入ったから安泰だとあぐらをかいていると、急な状況の変化についていけません。安定はないことを理解して日頃から対策を練っておくべきです。
【2】情報収集力と分析力をつける
もし転職が必要になった際、自分の能力に適した職場を探す必要があります。多くの情報が溢れている現在、情報弱者のままでは良い企業を見つけることはできません。自分に必要な情報を発見・分析できるかどうかで、その先の未来も決まります。
【3】コミュニケーション能力を高める
友人とは問題なくコミュニケーションが取れていても、仕事の場でのコミュニケーションは苦手という人は多いです。仕事で関わる人は年も立場も様々で持っている情報も感覚も違います。共通点の少ない人とコミュニケーションを取るには、論理的で、かつ、分かりやすい言い回しができなければいけません。
大企業でのキャリアが逆にリスクになる?
これまで「安定」の代名詞だった大企業ですが、大企業で働くことがかえってリスクになることもあります。
大企業にいるからこそ選択肢が狭くなる?
大企業にいると転勤の可能性もあります。土地勘のない場所に転勤になった場合、それなら転職しようかな?と思うこともあるでしょう。
しかし、大企業のブランド力は大きいため、大企業の社員としての地位を自ら手放すのはもったいないと思ったり、大企業だからこそできる仕事もあると思い直したりして結局転勤を受け入れてしまいがちです。もちろん、転勤が悪だと言っているわけではありません。しかし、望まない転勤にもかかわらず、また、転職したほうが自身のキャリアアップに繋がる可能性があるにもかかわらず、渋々転勤するのが良いことなのでしょうか。
このように、大企業に身を置いていると目が曇ってしまい、かえって選択肢が狭くなることもあるのです。
会社任せのキャリアは果たして幸せなのか?
大企業は転勤が多く、そもそも転勤前提の総合職の募集がほとんどです。今までなら、頻繁に転勤しても最後は本人の希望する場所で定年を迎えられるシステムが成り立っていましたが、終身雇用制度が崩壊しつつある現在ではそうも言えません。
もちろん転勤によってキャリアアップする可能性もありますが、大企業のシステムに任せてキャリアを終えることが果たして幸せと言えるのかはよく考えなければいけません。
サラリーマンが注意すべきリスク
大企業に限らず、サラリーマンとして企業に勤めている限り知っておかなければいけないリスクがあります。
それは、業界自体が立ちいかなくなるというリスクです。大企業と言えども業界自体が縮小してしまっては倒産もありえます。現実的ではないのでこのリスクを忘れがちになりますが、いくら企業経営が安定しているように見えても、業種によっては業界自体が縮小することもあるのです。
各業界の大手企業の実態を知ろう
ここまで読んでいただけば、大企業は安定しているという思いが幻想であるということが分かってきたかと思います。私たちが思い描くイメージと現実には当然差があります。そして現実を知ることで自身の選択肢も変わってきます。
ここでは各業界をリードする大手企業の実態をご紹介します。
【1】金融業界
まずは金融業界における大手メガバンクの実態です。
金融業界も安泰で華やかな印象がありますが、銀行の営業職の主な仕事はお客様のところへ通って仲良くなり、お金を借りてもらうことです。こう聞くとあまり良い印象を抱きませんね。
お金を借りたいと思っていないお客様を説得する必要がありますし、袖にされることも珍しくありません。人とのやり取りがメインになるので日本語力は身に付きますが、タフさが必要な業種です。
【2】大手メーカー
続いては、大手メーカーのお話です。
大手メーカーの特徴は、企業内部の様々な部署や役割が細分化されているということです。就職しても希望していた部門に配属されるとは限りませんし、一度配属されると3年はその部門で仕事をすることになります。
また、仕事が細分化されていることで、自分がやっていることが何に繋がっているのか、どんな結果が出ているのか分かりにくいという点でやりがいを感じられない人もいます。
【3】インフラ業界
私たちの生活に直結しているインフラ業界は、1つの仕事を完成させるまでに非常に長い時間がかかるのが特徴です。
例えば、何かものを作るにしても、調査・設計・建設それぞれに数年かかります。もちろん、その間に様々な人と関わったり、だんだんと建築物として形になることにやりがいを感じることもできます。
その一方で、少しの失敗が大事故に繋がる危険をはらんでいるのもこの業界の特徴です。「この程度で大丈夫だろう」が通用しないのです。
あって当たり前と捉えられがちなインフラを整備する業界は、感謝されにくい割には責任が重い業界なのです。
【4】食品業界
食品業界は就活生に人気の業種の一つです。
人気や流行を敏感に察知しながら商品を企画する。こう聞くと華々しい仕事に思えますが、実際は在庫の確認や商品登録等の地味な仕事が多いです。
商品開発がしたくても、しなければいけないこと(事務仕事)のほうが多いのも特徴です。
また、大手だと、社内での連携が無い、必要な情報がおりてこない、チームプレイより個人プレイが目立つ、などのデメリットもあります。
【5】総合商社
こちらも就活生に大人気の業種ですが、具体的にどのような仕事をしているのか、イメージできる人は少ないかもしれません。
総合商社に勤めるのであれば英語は必須です。また、入りたての頃は、書類の作成業務に追われます。しかし、下積み時代を終えれば、海外へ活躍の場を広げることができるでしょう。
総合商社では、個人個人の自主性が特に重要とされています。与えられた環境で与えられた仕事をするわけではないので、自分自身のアイデアを形にするのが好きな人にピッタリの業種だと言えるでしょう。
安定は存在しないことを理解して自分のキャリアを考えよう
大企業は安定しているという考えは幻想です。
大企業は給料自体が多いので、会社の都合を無批判に受け入れたり、この先も何とかなると考えたりしてしまいがちです。しかし、大企業に属していることにあぐらをかいていては自身のキャリアアップのチャンスを逃す可能性があります。大企業であっても倒産のリスクはありますし、リストラの対象にならないとも限りません。そのような時でも、実践的なスキルを身につけていれば、転職もスムーズに進みますし、今の会社に依存することもなくなります。
自分のイメージする大企業とその現実の姿を知った上で将来設計していきましょう。