消費税は一定の売上高を超えると、税務署に納めなければいけません。この消費税の計算がとても厄介で、中小規模の経営者には特に大きな負担となります。
今回は消費税の基本的な仕組みや納税金額の計算を簡潔にできる制度、そして課税取引となるのに税金を納めなくてもよい「免税」などについて詳しく解説します。
まずは消費税と課税仕入れを理解しよう
消費税とは消費活動に伴ってかかる税金です。100円の買い物をすれば10円の消費税が、飲食料品は8円の消費税がかかり(2021年1月現在)、合わせて110円、もしくは108円を払わなければならないですよね。
でもこの消費税分のお金がどうなるのかは、意外と知られていないのではないでしょうか。そこで消費税の仕組みや流れを押さえておきましょう。
消費税は企業が税務署に支払う
消費者が200円の商品を220円(消費税10%の場合)で売るときの消費税の流れを追ってみます。「製造メーカー」「卸売り」「小売」の順で商品が販売されます。
(1)商品製造メーカーが50円の原価で製品を作り、10%の消費税を課して55円で売ります。
製造メーカーは、卸売業者から預かっている消費税5円を税務署に納めます。
(2)卸売り業者は55円で仕入れて、110円(内:消費税10%)で小売りに販売したとします。
卸売り業者は小売り業者から消費税を10円預かり、製造メーカーに5円支払っているので、その差額5円を税務署に納めます。
(3)小売り業者は110円で仕入れ、最終消費者に220円(内:消費税10%)で販売したとします。
小売り業者は消費者から消費税を20円預かり、卸売りに10円支払っているので、その差額10円を税務署に納めます。
消費税は差額を分担して企業が納める
前項の例で「製造メーカー」が5円「卸売り」5円「小売」10円で合わせて20円が税務署に払われます。この20円を最終消費者が負担するという構造になっています。
「卸売り業者」と「小売り業者」は仕入れで支払った消費税と、販売して預かった消費税の差額を、税務署に収めるということが分かりましたね。
消費税を含めた仕入れが課税仕入れ
販売する商品を仕入れるときに、消費税が課税されている場合を「課税仕入れ」といいます。ネットショップから仕入れる場合は基本的に「課税仕入れ」となります。そして消費者へ向けて販売した場合、消費税が含まれている場合は「課税売上げ」といいます。
有形無形の商品を国内で販売する際、多くは消費税が発生します。
次項で仕入れと消費税の関係を、掘り下げていきます。
消費税納付と課税仕入れとの関係
ある商品を消費者へ販売して消費者から20円の消費税を預かり、その商品の仕入れ先に10円の消費税を支払っている場合の税務署への納付は、仕入れ先に支払った消費税10円は控除されます。これを「仕入税額控除」といいます。
次の2点をしっかり抑えてください。
- 「課税仕入れ」とは消費税が課される仕入れ
- 「仕入税額控除」とは課税仕入れをした場合に消費税が控除されること
課税仕入れとなる商品や取引
消費税が課される「課税仕入れ」には、次のような取引があります。これらは仕入税額控除の対象となります。
- 原材料の購入
- 棚卸資産となる商品の購入
- 新聞図書、事務用品、消耗品の購入
- 機械や建物など事業用資産の購入や賃貸
- 広告宣伝費、厚生費、接待費、水道光熱費、通信費の支払い
- 修繕費の支払い(建物、設備、車両など)
- 外注費の支払い(業務や派遣など)
給料の支払いは課税仕入れに入りませんが、人材派遣会社が使用人をA社へ派遣した場合、A社による使用人への支払いは課税の対象です。
課税仕入れの対象にならないもの
ネット販売をする商品については殆どが課税対象ですが、対象にならないものも併せて押さえておきましょう。課税仕入れの対象にならないので、当然「仕入税額控除」の対象にはなりません。
社会的な配慮などから、課税仕入れの対象にならないものは次の通りです。
- 土地の譲渡と1ヶ月以上の貸付け
- 日本郵便株式会社が行う切手や印紙の譲渡
- 地方公共団体が行う証紙の譲渡
- 商品券やプリペイドカードの譲渡
- 保険の対象となる医療行為
- 学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費、在学証明の手数料
消費税の仕入控除税額の計算方法
平成31年(2019年)10月から消費税率が標準税率は10%に、軽減税率は8%となりました。2021年1月現在での税率の計算方法です。
課税売上高の消費税額-仕入税額控除額=納付する消費税 なので計算式は以下となります。
- 課税売上高(税抜)×0.1または0.08-課税仕入高(税抜)×0.1または0.08=納付する消費税
例)税抜き1,000円で仕入れた商品を2,000円で販売した場合(標準税率で計算)
- 2,000円(課税売上高)×0.1=200円(消費税)
- 1,000円(課税仕入高)×0.1=100円(消費税)
となり 仕入高の消費税100円が仕入控除税額なので 200-100で100円が税務署に納付する消費税となります。
4つの消費税区分
消費税は、以下の4つの区分に分かれます。
-
- 課税
- 免税
- 非課税
- 不課税
事業を展開する上で「課税」と「免税」についての知識は特に必要になります。しっかり押さえておきましょう。
課税・免税・非課税・不課税を理解しよう
「課税取引」は消費税が課される取引のことです。それ以外に「免税」「非課税」「不課税」の3つの取引があります。
- 課税
国内で商品やサービスを提供し対価を得る取引。
- 免税
本来は課税される商品だが、納税が免除される取引。免税店での取引がこれに当たります。
- 非課税
対価を得て行う国内取引でも、課税のスタンスに馴染まないもの。社会的配慮から課税対象にならないものが該当します。土地、商品券、有価証券の譲渡や社会保険医療などが該当します。
- 不課税
国内において対価を得ない取引。例えば国外取引・給与・寄付の他、出資に対する配当も不課税取引に該当します。
またよく耳にする「課税売上割合」についても勉強しておきましょう。
課税売上割合の計算式はこちら。
詳しくは次項で述べます。
課税売上割合を解説
課税売上割合とは、売上げ全体に対する課税・免税取引の割合。支払った消費税を全額差し引くことができるかをみる指標です。
「非課税取引」の売上げが少ないほど、「課税売上割合」の数字が大きくなります。課税売上高が5億円未満で、「課税売上割合」が95%以上だと全額を差し引くことが可能です。
「簡易課税制度」を適用する選択肢もある
消費税を課税する事業者の場合、「簡易課税制度」を適用するかどうかという選択肢があります。
これは中小規模の事業者のために整えられた制度。簡単に納税できるというメリットがありますが、事前に申告が必要です。では次項で、詳しくみていきましょう。
簡易課税制度ってどんな制度?
「簡易課税制度」は、中小事業者の事務負担を軽くするために実際の仕入控除税額を計算することなく、納税額が計算できる制度です。
納付税額は、課税売上げの消費税から課税仕入れの消費税をマイナスして求めるのでしたね。仕入控除税額をきちんと計算しようとすると、課税対象の仕入高だけでなく設備の購入など消費税を支払った取引すべてを計算しなければなりません。仕入れを行うごとにその税額を書き留め、課税対象の金額を合算するのは大変で中小事業者には大きな負担となります。
簡易課税制度を採用すると、課税売上げなどにかかる消費税を、一定の割合で課税仕入れなどの消費税として算出することができます。そのため事業者は仕入れにかかる消費税を計算する必要はなく、売上げにかかる消費税などを書き留めればよいので、かなり業務負担が軽くなるのです。
簡易課税制度を適用するための条件
簡易課税制度を適用する場合の条件・要件は以下のとおりです。
- 基準期間(前々年又は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下。
中小事業者の事務負担軽減の目的があるからです。
- 適用したい開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出している。
これにより中長期の計画が必要になります。
- 「簡易課税制度」適用年度から2年間は別の課税プランに変更できない。
事務所の改修工事や、大規模な設備投資などの予定がある場合は注意が必要となります。
「簡易課税制度」の仕入控除税額の計算法
通常の簡易課税制度による計算方法
「簡易課税制度」では、仕入控除税額を課税売上高の消費税の一定の割合(みなし仕入率)とします。
業種の性質によって異なる「みなし仕入率」が設定されています。課税対象となる商品仕入れや設備投資が多くを占める卸売業は高めに設定され、反対に課税の対象ではない仕入れ(例・給与)が多いサービス業では低めに設定されています。
<6つの事業区分ごとのみなし仕入率>
第一種事業 : 90% (卸売業)
第二種事業 : 80% (小売業)
第三種事業 : 70% (製造業等)
第四種事業 : 60% (その他の事業)
第五種事業 : 50% (サービス業等)
第六種事業 : 40% (不動産業)
仕入控除税額算式
- (課税標準額に対する消費税額ー売上げに係る対価の変換等の金額に係る消費税額)×該当する業種のみなし仕入率=仕入控除税額
複数の種類の事業を行っている場合は、課税売上を業種ごとに分けます。例えば第一種と第三種の事業を行っている場合は、以下の計算式に当てはめます。
- 第一種事業に関わる消費税額×90%+第三種事業に関わる消費税額×70%=仕入控除税額
簡易課税制度の特例
2種類以上の事業を行っていても、1種類の事業による課税売上高が全体の75%以上を占める場合、その仕入れみなし率を全体の課税売上げに適用することができます。
3種類以上の事業を行っていても、2種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合はちょっと複雑です。その2種類の業種のうち「みなし仕入率」が高い方は、そのまま該当する「みなし仕入率」を採用。そして低い方の「みなし仕入率」を、その他の業種に採用します。
2種類以上の事業を行っていて、課税売上げを事業ごとに分けていない場合、区分をしていない事業の中で一番低い「みなし仕入率」を採用します。
※また複数の業種を扱う業者で次の場合は、少しややこしい計算方法になります。
- 貸し倒れの回収金額が残っている
- 売上対価の返還があり、売上対価の返還等にかかる消費税額が控除できない場合
簡易課税制度のメリット&デメリットを分析
簡易課税制度のメリット
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- 事務負担が大幅に軽減
簡易課税制度は元々、中小事業者の納付税額を計算する事務負担軽減の目的で作られました。この制度を利用することで、仕入に関して支払った消費税を記録する必要はなくなり、仕入控除税額が簡単に計算できます。
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- 消費税の負担が軽減する可能性がある
例えば第二種事業の小売業を想定してみます。みなし仕入率は80%です。課税売上に対する実際の課税仕入の割合が80%よりも低ければ、簡易課税制度を利用した場合より課税額が大きくなります。そういった場合は、簡易課税制度を採用した方が課税額が安くなります。
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- 経営戦略を立てやすくなる
売上げ予想額から一年分の消費税を大まかに把握できるので、経営戦略を練りやすくなります。
簡易課税制度のデメリット
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- 多くの種類の業種を営んでいる場合かえって業務が複雑になることも
多くの種類の業種を営んでいて、きちんと課税売上区分をしていない場合、一番低いみなし仕入率を採用しなければなりません。それでは課税額が大きくなってしまうので、課税売上を業種ごとに区分けしようとすると、業種が多い場合は業務負担が増えてしまうことがあります。
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- 消費税の負担が増加する可能性がある
もう一度、みなし仕入率は80%の第二種事業の小売業を想定してみます。課税売上に対する実際の課税仕入の割合が80%よりも高ければ、簡易課税制度を利用した場合、課税額が大きくなってしまいます。
また、高額な設備投資の支払いの中に消費税が含まれているのにもかかわらず、仕入控除税額に計上できなくなってしまいます。
開業して1年目は消費税が課税されない?
- 小規模事業者の納税義務の免除
2年前の課税売上高が1,000万円以下の事業者は基本的に、納税義務が免除されます。起業したばかりの場合、2年前の売上げは存在しません。従って2年間は消費税が免除されるということになるのです。
例えば税込み110万円の売上げがあり、本来は消費税分の10万円を納めなければならないのですが、その10万円が免除されます。
個人と法人では納税義務が免除される条件が違います。次項でその辺りを詳しく説明します。
個人事業者に消費税の課税が発生するケース
開業して2年目の1月1日~6月30日(上半期)の売上高が1,000万円を超過する場合、開業3年目から消費税が課税されます。
例えば令和元年度に開業したとして、令和2年度の1月1日~6月30日の期間の売上高が1,000万円以上になると、令和3年度から納税しなければならないということになります。
また令和元年度中に1,000万円以上の売上高を計上した場合も、令和3年度から納税義務が生じます。
なおこの1,000万円の判定には課税売上高のかわりに、給与等の支払額の合計を採用することができます。
起業1年目の事業年度が12ヶ月に満たない場合
起業1年目の事業年度が12ヶ月に満たない場合は、月々の売上高を年に換算する必要があります。
起業日が8月1日の場合、決算日(翌年の3月31日)まで8か月です。この8か月で950万の売上高がある場合、このように年換算します。
- 950万円÷8ヶ月×12ヶ月=1,425万円
年換算で1,000万円以上の1,425万円の売上高となったので、3年目から消費税の納税義務が生じることになります。
資本金1,000万円以上は消費税を納める
資本金が1,000万円以上ある法人は、企業1年目から消費税を納めなくてはなりません。節税を考えた場合、以下のような取り組みができます。
- 資本金は1,000万円未満とし、残りの分は社長が会社に貸し付けたという形をとる
- 出資の内訳を「資本金」と「資本準備金」に分けて登記する
(出資金の内半分までは、資本金にしないことが認められています。)
※起業1年目で増資をして資本金が1,000万円以上になると、2年目から納税義務が発生します。
※5億円以上の資本金がある事業者に、50%以上の出資を行ってもらった場合には、起業1年目から納税しなければなりません。
消費税がかからない「免税」を詳しく知ろう
消費税がかからない取引の中に免税取引がありました。免税なのに課税取引とされていて少しややこしいですが、0%の消費税が課されていると理解しましょう。具体的にはどのような取引が消費税がかからないのか解説します。
消費税がかからない輸出取引
以下のような輸出取引の場合は、免税取引になります。
- 日本から海外への資産の譲渡・貸付けといった一般的な輸出取引
- 日本と海外の間で行われる通信や郵便
- 日本非住居者へ役務提供
- 日本非住居者への著作権・営業権などの無形財産の譲渡や貸付け
ただし日本非住居者でも以下の場合は、免税取引とはならず消費税がかかります。
- 日本にある資産の保管や運送
- 日本での宿泊や飲食
(または、これらに準ずるケース)
さらに掘り下げて免税取引になる輸出取引を挙げます。
- 国内と海外間での旅客や貨物輸送
- 船舶運航事業者等への外航船舶の譲渡や貸付け
- 外国貨物の譲渡・貸付・保管・運送・鑑定役務の提供
消費税を支払わなくて良い免税取引の適用方法
消費税を支払わなくて良い免税取引の適用を受けるためには、輸出取引である証明書が必要になります。
そして「輸出許可書」「税関長の証明書」「輸出の事実が証明できる書類」などを、一定期間保管しておく必要があります。
免税取引に含まれず消費税がかかるケース
以下は免税取引ではないので、消費税がかかります。
- 輸出商品を製造するための下請け加工
- 輸出事業者に対して行う、日本国内での資産の譲渡
旅行会社が主催する海外パックツアーの旅行会社の役務提供は、国内の役務提供と国外の役務提供に分けられます。以下に関しては、免税取引に値しないので、消費税がかかります。
- 国内での役務の提供
- パスポート交付申請などの事務代行業務
そして以下に関しては、消費税が発生しません。
- 海外で行われる旅行案内や宿泊
- 国内から国外、国外から国内への移動に伴う輸送
消費税が課される課税仕入れと売上げまとめ
課税仕入れと課税売上げの関係、消費税について詳しく解説しました。簡易課税制度を上手に取り入れれば、納税額計算による業務負担が軽くなります。消費税については細かな設定があり非常にややこしいです。この記事を参考に消費税についての理解を深めてください。