ビジネスで成功しようと思えば、ライバルが多数ひしめく「レッドオーシャン」よりも競争相手が少ない「ブルーオーシャン」を狙うのが定石です。その最たるものが「ニッチ市場」です。
大成功を収めている企業の多くは、その企業自体がニッチな存在か、もしくは大きな市場の中でもニッチな分野を掘り下げたかのどちらかです。
ニッチ市場を発掘できれば、競合が少ないので、上手くいけば相当の利益が見込めます。
そこで今回は、ニッチ市場のメリットやデメリット、ニッチ市場を見つける方法、さらにはニッチな商品やサービスを売り込むコツなどについて特集します。
ニッチ市場とは?
まずは、ニッチ市場について基本的なことを説明していきます。
ニッチ市場はまだ誰も手をつけていない商品やサービスを指す
ニッチ市場は、別名「隙間市場」といいます。ニッチとは、日本語に訳すと「くぼみ」ですが、いわゆる「穴場」のことだと考えると分かりやすいでしょう。
つまり、ニッチ市場とは、まだ誰も手をつけていない商品やサービスのことです。この市場を発見、開発できれば、まったく新しい需要を掘り起こせること間違いありません。
ニッチ市場では、一部の好みやニーズに特化して商品等を提供するため、小さな市場規模からスタートすることが多いです。しかし、ものによっては、そこから多きな需要につながり、他の参入を許さないほどの大市場となる例もあります。
ニッチ市場の具体例
ニッチ市場の例を2つご紹介しましょう。
まず一つ目は、愛知県豊橋市のヤマサちくわ株式会社の「ちくわ」です。
創業約200年を誇るヤマサでは、いまだに腕利きの職人が魚を一匹ずつさばいて看板商品のちくわを作ります。練り込む魚も、金目鯛や桜鯛、ハモに太刀魚など、季節の旬の魚をチョイスしてブレンドします。作れる量が限られているため、東海地方を中心とした限られた販売店でしか販売しません。あえて大量生産せず、品質を保つことでブランド化に成功し、根強いファンの支持を得ています。
二つ目は、ソニーの「CMOSセンサー」です。
スマホ1台に使われる部品は2000個近くともいわれますが、その内の一つにカメラに搭載されるイメージセンサーがあります。このイメージセンサーの世界シェアでソニーのCMOSセンサーは、42%を占めます。全世界の年間スマホ出荷量は約13億台。そのうちの約5.5億台にソニーのイメージセンサーが使われている計算です。
かつて、世界のデジカメ市場は、ソニーをはじめ、キャノンやニコンといった日本企業がけん引していました。しかし、スマホの普及にともないデジカメ市場が急激に縮小すると、ソニーの売上も低下しました。ただ、その後、デジカメで培った技術を活かしつつ、さらに磨きをかけてスマホに昇華させると、世界のスマホ市場で絶大な評価を得るにいたりました。状況が変化してもあきらめずに工夫と研さんを積み、執念でニッチ市場を獲得した例といえるでしょう。
このように、ニッチだからといって決して楽に儲けられるわけではありません。ニッチ市場での成功は、他が真似できない独自の目のつけ所や努力があってこそといえるでしょう。
ニッチ市場を狙うメリット
続いては、ニッチ市場を狙うメリットをご紹介します。
低リスクでスタートできる
ニッチ市場はお金をかけずにスタートできます。競争相手がいないので、無理に競り合うことなく身の丈に合った範囲でビジネスモデルを構築できるのが利点です。
しかも、初期投資が少なく、周囲の人間を巻きこむことも少ないため、状況が悪ければいつでも事業をストップできるのもメリットです。
ライバルが少ない
ニッチ市場はライバルが少ないので、利益が確保しやすい点もメリットです。大企業の場合、ある程度まとまった収益が見込めなければ参入してきません。その点、小回りのきく個人や中小・零細企業の方がニッチ市場を開拓しやすいといえるでしょう。また、そこに魅力を感じる顧客層も限定されていることが多く、上手く運べば知る人ぞ知るという評価を得て利益を確保することができます。
利益率の高い商売ができる
多くのライバルとの間で価格競争をするとなると、利益はどんどん目減りしていきます。こうなると個人や中小は、資金力のある大きな企業に勝てません。
しかし、ニッチ市場であれば、独自のビジネスモデルが構築できるため、規模の小さな会社や個人でも高い利益率を確保できる可能性が大きくなります。
パーソナライズできるのが強味
ニッチ市場では、大量生産・大量販売とは真逆のビジネス戦略で勝負することが多いです。つまり、個人のニーズに合わせてサービスをカスタマイズする手法です。
昨今では、業界を問わず、消費者が個人の好みやこだわりを強く持ち、それを満たす商品やサービスに価値を見いだす傾向が強くなっています。そのため、個人のニーズに応えてパーソナライズできるニッチ市場は有利と言えるでしょう。
ニッチ市場のデメリット
次に、ニッチ市場のデメリットについてご紹介していきます。
本業にするにはリスクが大きい
先ほど例として挙げたソニーのイメージセンサーのケースは、莫大な市場規模でした。しかし、多くのニッチ市場の規模はそこまで大きくありません。ですので、なかなか認知度が上がらなかったり、売れるようになっても利益が出にくいというケースがあります。そのため、副業としてスタートするなら良いかもしれませんが、いきなり本業としてニッチ市場で勝負するのはリスクがあります。
すぐに競合が出現する
自身がスタートした時はニッチ市場でも、将来性があるとわかるとあっという間に競合が現れます。
とくに日本人は真似ることが得意なので、イイトコ取りをして顧客まで一緒に奪ってしまうケースが頻繁に見られます。
例えば、百均の商品を見てみてください。特に売れ筋商品を見ると、かつては百貨店や専門店でしか見なかったようなものがその何分の一という値段で売られていたりします。また、ある百均で売れていると分かれば、別の百均でもすぐに類似品の販売がスタートするということもあります。
そのため、せっかくニッチ市場を見つけても、よほどのレア品か特殊技術で製造した物でもなければ、市場を独占し続けるのは難しいでしょう。
見つけ出すのが難しい
ニッチ市場は、意識して見つけようとするとかなり困難です。むしろ狙わずに偶然の産物として出来上がったものの方が多いかもしれません。
例えば何度も貼ったりはがせたりする「付箋」。文房具界でも指折りのロングヒット商品ですが、あの微妙な接着力は、開発したものの使い道がなく何年も放置されていた接着力の弱い接着剤の魅力に気づけなければ実現されることはなかったでしょう。
よく世間でも、ノーベル賞級の大発見は、お風呂に入っているときに思いついたり、夢で見るなどといった、いわゆる「セレンディピティ(偶然の素敵な出会い)」によるものが多いといわれます。ニッチ市場も同じく、俗にいう「降りてきた!」という閃きから商品化されるものが少なくないのです。
このように、ニッチ市場はいつでも好きなときに見つけ出せるものではないことには注意が必要です。
ニッチ市場を見つける視点
先ほどニッチな商品は偶然の産物が多いと述べました。しかし、そうは言うものの、すべてがそうではありません。狙ってニッチを作り上げた例もたくさんあります。
そこでこの項目では、ニッチ市場を見つけるための大事な視点について伝授したいと思います。
困りごとに目を向ける
ニッチ市場を見つけ出すためには、日常生活の困りごとに目を向けるのが有効です。自分が不便に思うことや面倒で仕方がないことは、世の中の多くの人も同じように感じているものです。
例えば、料理の途中で菜ばしの置き場に困ったことがないでしょうか。その困りごとを、フライパンの蓋に磁石の力でくっつく菜ばしとして、フライパンとセットで商品化した例があります。また、使用中の菜ばしを仕方なくコンロの横などに置くと、先端の汚れのせいで調理台も汚れてしまうことがあります。そこに着目して、先がわずかに反り上がった菜ばしを商品化した例もあります。
多くの人が困りごととして感じていても、それを解決する手段には気づきません。しかし、「ニッチを見つけよう」と常にアンテナを貼っていれば、目の前のヒントに気づけることもあるのです。
よって、まずは「痛い」「危ない」「うっとうしい」「手間と時間がかかる」など、日常生活での負の感情や思いを敏感にキャッチすることから始めてみましょう。
限定にこだわる
突然ですが、「目垢(めあか)がつく」という言葉をご存知でしょうか。これは美術界で使われる言葉で、人目にさらすことで作品が汚れてしまう(価値が下がる)という意味で使われます。とても貴重な古美術品などは、あえて大勢には見せず、価値の分かる、あるいは、本当に買ってくれそうな目利きの資産家にのみ見せるべきだという価値観がその背景にあります。
しかし、隠されるとどうしても見たくなる、というのが人間の性(さが)です。この心理を利用するのが、「限定」という売り方です。一部の人にしか見せないし、売らない、という方法で特別感をくすぐるのです。
例えば、オンラインサロンがその一例です。会員限定でブログやオンラインのオフ会を通じて、とっておきの話題や価値ある情報を提供するのです。「美味しいワインの飲み方・見つけ方」「3か月以内に恋人が見つかる方法」など、ニッチですが関心のある人には強く響く、というテーマは結構あるものです。自分ならではの特別な経験やスキルがあれば、伝え方や価格設定を工夫することで、特別感をそそるニッチな世界をプロデュースできることでしょう。
差別化する
人にはギャップに注目する性質があります。そのため、同じように見えて「ここがちょっと違う」「こっちが得」といった差別化に成功すると、ニッチ市場が開けることがあります。
先ほどは「困りごと」について述べましたが、ある商品を使っていて「もう少しこうだったら……」と感じたときこそ差別化を見いだすチャンスです。さらに見せ方や与え方にひと工夫を加えるなど、さまざまな意味での「違い」に注目するのもおすすめです。
フィードバックを大切にする
どのようなビジネスもフィードバックが大切です。自分の思いだけを主張して市場にリリースしても、お客さんの評価に鈍感であれば失敗は目に見えています。
周囲の人の意見を聞く
新規事業の立ち上げやスタートアップのシステム開発などでは、「MVP開発」という手法がよく用いられます。これは、必要最小限の機能を備えた段階でお試し版として市場に出してみて、ユーザーのフィードバックをうかがう手法です。そして、反応が良ければそのまま本格的な製品化に移りますが、悪ければ即刻中止し、別の方法に切り替えることになります。この方法なら最小限のコストで済みますし、失敗する手前で引き返せます。
ニッチ市場は、魅力がある反面、失敗するリスクも多いので、ニッチ市場に打って出る場合も、家族や友人といった身近な人の正直な意見を聞いてその後の方針を決めるのがベターです。
ニッチを売り込む際のポイント
この項目では、ニッチ市場で商品やサービスを売り込んでいく際のポイントについて解説していきます。
ペルソナ設定
どんなニッチ市場も、それを必要としてくれるターゲットがいてこそビジネスとして成り立ちます。そのため、ニッチ市場に挑戦する際は、属性や好み、収入や購買行動など、どのようなタイプの人がターゲットになりうるのか、しっかりと事前に検討し、それに見合った売り方を考えることが重要です。
SNSをフル活用する
扱う商品やサービスにもよりますが、認知度や訴求力を高めるならSNSをフル活用するのがおすすめです。とくに10代~30代ならX(旧Twitter)やInstagram、YouTube、40代ならFaceBookの利用率が高いので、積極的に利用していきましょう。
無理をしすぎない
前述のとおり、ニッチ市場をいきなり本業とするのはおすすめしません。あくまで副業として慎重に進めていくのが良いでしょう。
すべてをかけて挑戦し、大きく失敗してしまうと取り返しがつかなくなります。よって、今の空き時間や予算に見合った範囲で手掛けることが大切です。そして、本業を上回るほどの実績と収益が伴ってきたら、そこではじめて本業化を検討しましょう。
まとめ
今回の記事では、ニッチ市場のメリットとデメリット、見つけ方などについて伝授しました。
ニッチ市場は誰も手を出したことのない新たな世界のため、大変魅力があります。自分が良いと感じたものをユーザーが強く支持してくれれば、喜びもひとしおでしょう。
しかし、前例がないからこそリスクも伴います。くれぐれも身の丈にあったやり方に努め、最初から無理をし過ぎないように注意しましょう。