ビジネスモデルでは、企業と消費者間の取引であるBtoCと、消費者同士の取引であるCtoCが有名です。そして最近になって流行の兆しを見せている新たなビジネスモデルを、「D2C」と言います。
名前は似た響きがありますが内容は大きく異なるため、それぞれの違いを理解しておくことが大切です。今回はD2Cの概要やメリット、活用例などについて紹介していきます。
D2Cについて
「D2C」とは一言で言うと、「企業が直接消費者と取引するビジネスモデル」です。例えばテレビを販売する場合であれば、卸売業者や家電量販店を経由せず、自社が運営している販売店や自社のECショップで直接販売する方法がD2Cに当たります。
途中で中間業者を挟まないため、商品を製造した会社が販売までに要する全ての工程を担う点が特徴です。現在では家電や日用品のみならず、アパレル製品やサプリメントなどあらゆる商品がD2C方式で販売されています。
BtoCとD2Cの違い
同じ企業と消費者の取引ということで、BtoCとD2Cは非常に混同しやすいと言えます。最も違う点は、「企業が直接消費者に商品を販売しているかどうか」です。
例えば先ほどのテレビの例であれば、BtoCが代理店や小売店を経由して販売する方式で、D2Cが直営店店舗や自社サイトで直接販売する方式といった具合です。D2Cは商品流通や販売PR、販売後のアフターフォローなどを全て自社で行うため、消費者と企業との結びつきがより強くなります。
D2Cが流行している理由
D2Cのビジネスモデル自体は昔から存在していましたが、多くの企業が導入していたのは代理店や小売店などを通したBtoCでのビジネスモデルでした。D2Cの方式を取り入れる企業が増えてきたのは、近年になってからの事です。
D2Cが流行している背景には、市場や顧客ニーズの変化、技術の進歩などが関係しています。この項目では、D2Cが流行している理由について解説していきます。
EC市場の規模が大きくなった
これまで商品を購入すると言えば、小売店に足を運んで購入するのが一般的でした。ネット注文に対応した商品はごく一部でしたし、インターネットにアクセスできる携帯電話やパソコンを持っていない人もたくさんいました。
しかし現在では、インターネット環境やスマホの普及とともにECサイトも数を増やしており、今では多くの人がパソコンやスマホからクリック一つで商品を購入できるようになりました。
以前のように、お店に行く必要性は薄れています。そのため中間業者に手数料を支払うより、自分たちで直接販売したほうが利益になると考える企業も多くなってきたのです。
SNSで企業と消費者の距離が縮まった
これまで企業が商品情報を発信する時は、小売り店舗で店員が顧客と直接対面しての商品PRがメインでした。しかし、小売店はあくまで商品を販売する場所で商品を製造しているわけではないため、小売店の店員が商品の魅力を100%伝えきれないケースも多かったです。
今ではSNSの普及により、企業はこれまで以上に消費者に向けて気軽にメッセージを伝えることが可能になりました。消費者も同様で、以前より気軽に意見を企業に伝えられます。
SNSによって企業と消費者との距離が縮まったため、小売店の店員に任せるよりも、誰よりも商品に詳しい企業が商品の魅力やメリットを直接PRしたほうが、商品を購入してもらえるケースも多くなりました。SNSを活用して企業が消費者に直接PRできるのであれば、そのまま販売してしまうD2Cのスタイルを採用したほうが、効率的に販売できます。
顧客ニーズの変化
以前の顧客ニーズは、とにかく価格や機能が重視されていました。価格を重視する人はとにかく安い商品を欲しがり、機能を重要視する人は値が張る高機能商品にブランド価値を感じるという具合です。しかし、SNSなどで気軽に他者と繋がれる現在では、消費者は商品に対して新しい体験や共感を求めるようになってきました。
消費者に新機能をアピールしたり共感してもらったりするためには、製造企業が直接商品PRをしたほうが確実です。そのため、商品の魅力を直接伝えやすいD2Cで販売する企業が増えてきたのです。
D2Cのメリット
D2Cには、既存のビジネススタイルにはないメリットが数多く存在しています。メリットが大きいからこそ、多くの企業が採用していると言っても過言ではありません。
今回は、具体的なメリットについて3点紹介します。ビジネスモデルの違いをより深く理解するための参考にしてください。
利益率が上がる
代理店や小売店などを通さないため、余計な手数料がかかりません。同じ金額で商品を販売しても、利益率には大きな差が出ます。
以前は代理店や小売店の力を借りなければ商品PRや流通経路の確保が難しかったのですが、現在ではSNSやECサイトなどを駆使すれば企業だけでそれらの確保が可能です。手数料と言う大きなコストを丸々削減できるのは、大きなメリットと言えます。
自由度が高い
全て自社で行うことにより、マーケティングや販売方法も自由に決められます。結果として、商品の細かい魅力や具体的な性能をより詳しく消費者に伝えることが可能です。
代理店や小売店を挟んでしまうと、どうしてもマーケティングはお店依存になってしまいます。しかし直営店舗であれば、レイアウトや販売方針、オプションなども自由自在です。消費者との間に誤解が生まれないよう丁寧にPRをしていきたい商品ほど、D2Cの販売スタイルが効果的と言えます。
データの蓄積や分析が容易
小売店経由で商品を販売した場合、商品がいくつ売れたかまでは把握できても、いつだれが何を購入したかまでは分かりません。一方D2Cでは販売を全て自社で行うため、商品の販売データを全て自社内に蓄積できます。
データの一括管理によって、顧客層の分析や売れる時期などが明確に分析可能です。よりニーズに合ったマーケティング手法や新しい商品の開発に活かせるため、データが残るのは大きなメリットと言えます。
デメリット
D2Cは全ての点で優れているわけではなく、当然デメリットも存在します。メリットが大きいからと安易に実践すると、大きな損失を出してしまうリスクがある点は覚えておきましょう。
今回は、具体的なデメリットを2つ紹介します。今後D2Cを導入するとしても、商品や販売方法がD2Cに合ったものなのかしっかりと分析をしてください。
初期コストが高い
D2C方式では商品のPRや認知も全て自社で行う必要があるため、時間とコストがかかります。1度知名度が上がればコストを大きく抑えられますが、最初はかなりの投資が必要です。
一方代理店や小売店に依頼すれば、直営店を持つ場合に比べて店舗費用や商品の管理費などはかかりません。自社だけで販売するというのは、店舗やサイトの作成、商品の維持費に広告費なども全て自社で受け持つことを意味します。万が一商品の売れ行きが芳しくない場合、高い初期コストが回収できない可能性がある点は大きなデメリットです。
マーケティング力が求められる
既存のビジネスモデルであればマーケティングは代理店や小売店が全て行ってくれていたため、企業は商品の企画や製造に集中できました。しかし、D2Cでは企業は企画から製造、流通に販売まで全て自社で行います。
新しい商品を販売するのは決して簡単ではなく、より多くの消費者が魅力的に感じるようなマーケティングが必要です。最初は企業にもノウハウが一切ないため、手探りでマーケティングしていかなければいけない点は大きなデメリットと言えます。
D2Cを導入する際のポイント
D2Cを活用して商品を販売するのであれば、ある程度押さえておくべきポイントがあります。より多くの消費者に長く商品を使ってもらうためには必須の要素なので、ぜひ頭に入れておきましょう。
オリジナルのブランド力を出す
D2Cでは企業が直接、消費者に販売するため、企業の魅力や強みが販売力に直結します。多くの商品は類似したものが既にあるため、自社ブランドの商品をどうやって差別化させていくかが大切です。
自社、あるいは商品に魅力を感じてもらえなければ商品は購入してもらえませんし、リピーターを作りだすこともできません。全ての要素で他社を上回る必要はないので、会社と商品の双方になにかしら独自の強みを持たせましょう。商品だけではなく、直接運営している店舗やECサイトでのサービスで差別化を図る戦略も有効です。
日々マーケティング力を鍛える
D2Cの初期は、自社が直接商品を販売していることを周知させることが第一です。1人でも多く自社のお店やサイトに訪れてもらうためにも、マーケティング方法は常に考えていきましょう。
どんなに良い商品でも、消費者が認知していなければ販売数は増えません。どの媒体でどの層にどんなマーケティングを仕掛けるのかを考え、より商品を魅力的に知ってもらうため、マーケティング力を鍛えることが大切です。
顧客との繋がりを大切にする
D2Cのメリットは、顧客との距離感が近くなる点です。SNSを活用することで商品を買ってくれる消費者との距離を縮めることは、新規開拓リピーター作りにとても重要と言えます。
写真を使った商品情報の発信や、ライブ配信を活用した消費者との交流など、D2Cであれば消費者と繋がる手段はいくらでもあります。特にSNSは最も手軽かつ多くの消費者と繋がれる手段なので、積極的に活用して他人と繋がっていくと販売力の向上にも効果的です。
D2Cの事業例
国内外問わず、D2C事業の成功例は日を追うごとに多くなっています。D2Cのビジネスモデルを取り入れるのであれば、先人の活用方法も参考にすべきです。
今回は、3社の成功例について紹介します。いずれもD2Cのメリットを活かしたマーケティングを行っているので、活用できる部分があるならぜひ利用してみましょう。
コスメブランド「Glossier」
ニューヨークで生まれた「Glossier」では、美容ブログ発祥のコスメブランドです。元々ブログでメイクのコツやおすすめのコスメ術などを発信していたノウハウを活かし、SNSを通じて商品の魅力を発信したり、消費者からの声を取り入れた商品制作をおこなったりしています。アメリカだけでなく、日本でも利用者は多いです。
SNSでは単に商品を紹介するだけでなく、効果的な活用方法や健康的なメイク方法等も併せて紹介することで、ファンの獲得に成功しています。コスメブランドは数多くありますが、消費者の知りたい内容を企業が直接紹介することでユーザーの需要を満たし、ブランド独自の強みを出しました。
時計ブランド「THE 5TH」
オーストラリアの企業である「THE 5TH」は、シンプルさとエレガントなデザインに趣をおいた腕時計ブランドです。日本ではまだ実店舗はありませんが、D2Cで重要なポイントである顧客ニーズをうまく利用したマーケティングを成功させ、日本にも多くのファンを獲得しています。具体的には、販売日を毎月5日だけにしぼることで限定感を演出しました。
企業が直接消費者に5日限定販売であることを周知させることにより、商品の限定感が高まり購入意欲の促進に繋がります。また、販売日以外はマーケティング戦略や顧客リサーチに使えるため、限られた時間を効率的に利用できた点も成功の大きなポイントです。
アパレルブランド「オールユアーズ」
日本のアパレルブランドである「オールユアーズ」では、ファンコミュニティを活用して消費者と一体となった商品開発を行っています。コミュニティの支援者は「共犯者」と呼ばれ、商品だけでなく一緒に商品開発や新ブランドの創造をしていく体験ができます。
企業と消費者との距離が近いD2Cならではの戦略であり、多くの共感を得られるためファン数を大きく増やすことに成功しました。購入者も自分たちが作成の一端を担った商品には愛着がわくため、リピーター獲得にも大きな効果があります。
「中間マージンが不要」というD2Cのメリットにより、価格が比較的安価な点も多くの利用者が参加する要因となっています。「オールユアーズ」のように消費者と一体になって作り上げていくタイプのマーケティングでは、D2Cは非常に効果的です。
まとめ
D2Cのビジネスモデルは、既存のビジネスモデルよりも優れている点が数多く存在します。マーケティングスタイルや商品の種類によっては、売上を大きく伸ばせる可能性が高いです。
一方で、どんな場合でも有効なビジネスモデルではないことも頭に入れておきましょう。初期コストが高く自社のマーケティング力が問われるため、良い商品を活かせるかどうかは完全に自社次第です。
今後もECサイトやSNSの発展により、企業と消費者との距離はどんどん縮まっていくことが予想されます。これからの時代のビジネスモデルとして、D2Cの導入も検討してはいかがでしょうか。