輸出業などの海外取引で売上がある事業者は、消費税の確定申告をすれば消費税還付を受けられる場合があります。ただし、消費税還付を受けるには条件があり、免税事業者などは対象外です。
そこで今回は、消費税の納税・還付の仕組みと、消費税還付を受けるのに必要な手続き・書類などを徹底解説します。
海外取引における消費税
最初に海外取引における消費税の仕組みを解説します。
日本の消費税(納税)の仕組み
まず日本の消費税納税の仕組みについて説明します。
消費税とは、我々消費者が商品・サービスを購入した際に発生する8%又は10%の税金のことです。本来消費税の納付義務があるのは消費者です。しかし、消費者一人ひとりが納税するのは手間がかかります。そのため、日本では商品・サービスを販売している事業者が消費者から消費税を預かり、後でまとめて納付することになっています。
厳密には、事業者が消費者から預かった消費税額から、仕入先・外注先に経費として支払った消費税額を引いた差額を国に納めることになります。
海外輸出では消費税を預からない
しかし、海外輸出の場合は消費者から消費税を預かることができません。受け取るのは商品代金だけです。そのため、納めるべき消費税がありません。
外国人相手の取引は消費税の負担義務無し?
続いて、消費税の負担義務が発生する取引について見ていきます。
消費税の発生条件
消費税の負担義務が発生する取引か否かは、以下のフローチャートで判定されます。
海外にいる相手との取引であれば、消費税の課税対象にはなりません。海外取引事業者に消費税の負担義務が発生するのは、以下の2つの条件を共に満たした場合のみです。
国内で行われた取引は課税対象
まず1つ目は、「取引が国内で行われている場合」です。
外国人や海外の企業相手に取引をしていても、取引相手が国内にいる場合は「国内取引」とみなされます。
逆に言うと、日本人・日本企業相手の取引でも、取引相手が国外にいれば「国外取引」となるため、非課税となります。
輸出免税取引でないなら課税対象
2つ目の条件は、輸出免税取引でないことです。
以下のような取引は輸出免税取引に該当するため、非課税となります。
- 日本から海外への一般的な輸出
- 外国貨物の譲渡・レンタル
- 国内外にわたる旅客や貨物の輸送(国際輸送)
- 外航船舶等の譲渡・レンタル・修理サービスの提供
- 国際輸送の用に供されるコンテナの譲渡・レンタル・修理サービスの提供
- 外航船舶等の入出港等にかかる役務の提供
- 外国貨物の荷役や運送の役務の提供
- 国内と国外との間の通信又は郵便若しくは信書便
- 非居住者に対する無形固定資産等の譲渡又はレンタル
- 非居住者に対する役務の提供で、国内にある資産に係る運送又は保管、国内における飲食又は宿泊、それらに準ずるもので国内において直接便益を享受するもの以外
国内取引の場合か、もしくは上記の輸出免税取引に当てはまらない場合は、外国人相手の取引であっても消費税の課税対象になります。
輸出事業者への消費税還付の仕組み
続いて、輸出事業者へ消費税が還付される仕組みを説明します。
消費税還付の仕組み
消費税は物やサービスを消費したことに対する課税なので、最終消費者が負担すべきです。しかし、海外輸出の場合、消費者は海外にいるので、消費税を徴収することができません。
その一方で、輸出事業者は国内で商品を仕入れる際に消費税を支払っています。このままだと、輸出事業の場合、消費者でない輸出事業者が本来消費税を納めるべき者に代わって消費税を負担することになってしまいます。消費者でない者が消費税を負担するのは、消費税の趣旨に反します。そこで、輸出事業者は自己負担した消費税を返してもらえるようになっています。これが、消費税還付です。
消費税が還付される条件
消費税が還付される条件は以下の通りです。
- 国外で行われた取引である
- 国内取引だが、日本に住所を持たない訪日外国人との取引である
免税事業者は消費税還付が受けられない
ただし、輸出事業者でも免税事業者は消費税還付を受けることができません。
免税事業者とは?
日本では消費税の納税義務を負うのは、2年前の売上が1,000万円以上の事業者だけです。2年前の売上が1,000万円未満の場合、また新設会社のために売上実績のない法人事業者(資本金または出資の額が1,000万円未満)および個人事業者は消費税納税の義務がない「免税事業者」となります。
免税事業者は課税対象者でないため、消費税還付を受ける権利もありません。
課税事業者になれば還付を受けられる
しかし、免税事業者でも消費税還付を受けられるようになる方法はあります。
それは課税事業者になることです。
免税事業者には消費税を納める義務がないと書きましたが、納税の権利がないわけではありません。自ら申告して消費税を納めて課税事業者になることはできます。課税事業者になれば、売上1,000万円以下でも消費税の還付を受けることができます。
課税事業者になる方法
課税事業者になる方法は簡単です。最寄りの税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出するだけです。
ただし、提出してすぐ課税事業者になるわけではありません。課税事業者になれるのは提出した日の含まれる年度の次の年度からです。
税理士に相談
消費税課税事業者選択届出書の書き方や還付手続きでわからないことがある場合は、税理士に相談しましょう。
消費税還付はかなりの額に上るため、税理士を雇ってもプラスになることの方が多いです。
輸出以外で売上がある場合は注意
ただし、輸出業の他に国内販売やアフィリエイトでの売上がある場合は注意が必要です。
課税事業者になってしまうと、輸出業の仕入れで支払った消費税額より国内販売・アフィリエイトで預かった消費税額の方が多い場合は、消費税を納めなければいけなくなります。
国内取引がある場合は、よく計算してから消費税課税事業者選択届出書を提出してください。
個人輸出業者が消費税還付を受ける方法
最後に、個人輸出業者が消費税還付を受ける方法を解説します。
輸出消費税還付手続きで必要な書類
消費税の確定申告をすれば消費税還付を受けることができますが、輸出業の場合は以下の書類を準備しておく必要があります。
- 輸出証明書(少額の場合は国際スピード郵便EMSの控え)
- 科目別消費税額明細書
- 輸出売上の総勘定元帳
- 輸出代金入金の預金通帳コピー
- 輸出売買契約書・納品書・請求書
- 国内仕入れの請求書、領収証
消費税還付申請書類
また、消費税還付申請の際に必要な書類は、事業形態によって異なります。
個人輸出専門事業者は以下の書類が必要です。
- 課税期間分の消費税・地方消費税の確定申告書
- 課税売上割合
- 控除対象仕入税額等の計算書
ただし、輸出業と国内販売を並行している事業者は、課税期間分の消費税・地方消費税の確定申告書のみで問題ありません。
輸出免税証明書類
また、輸出免税取引を証明するためにも別途書類が必要です。
一般的には輸出許可書、積込承認書又は税関の輸出証明書が証明書類となります。郵便による輸出で20万円以下の場合はその事実を記載した帳簿又は郵便物受領証等が証明書類となります。
消費税の確定申告
必要書類を揃えたら、消費税の確定申告をしましょう。会計ソフトを使えば個人でも簡単に申告できます。面倒な場合は税理士に依頼しましょう。
消費税還付を受けないと損
日本の輸出事業者は消費税還付を受けられます。多くの人がこのことを知らずに損をしています。海外輸出で売上がある場合は、自分が消費税還付を受けられるか確認してみてください。