仕入れの契約書や取り決め事項の失敗しない作り方

仕入れを始める際には、契約書が必要となります。この記事では契約書にはどんな項目を盛り込めば良いのか、どんなところに注意すれば良いのかを解説します。また、卸す側の立場から見た契約書の意義についても、合わせて説明します。

目次

仕入取引を始めるための取り決め事項

取引先と良好な関係を結ぶために、仕入れの際の取り決めは入念に定め、契約書などに明文化する必要があります。取引条件が定期的に改定されるときは、片側が著しく不利な条件にならないようにしましょう

これから仕入れに必要な取り決め事項について解説します。

【仕入れ形態・価格・発注数量】仕入れを始める際に必要な取り決め

◆仕入れ形態を決める

仕入は主に買取仕入れ・委託仕入れ・消化仕入れがあります。どの形態にするかを最初に考える必要があります。

買取仕入れ

最も多く取り入れられている仕入れ形態。商品を買い取るので、在庫リスクが発生します

委託仕入れ

商品を仮受けし、売れるまで所有権は仕入れ先にあります。仕入れ先には販売実績に応じて手数料を支払います

消化仕入れ

委託仕入れに似ていて、売れた分だけ発注をして仕入れる形態なので、在庫リスクは仕入れ先にあります。

◆価格条件を決める

取り引きを始めるときに保険金や加盟金などの初期費用が必要なことがありますが、何に対する費用なのか、その目的をしっかり確認しましょう。

そして取引先からの仕入れ条件により、次のように一定の割引制度を採用しているケースがあります。

現金割引

現金払いや決められた期日までに支払った場合の割引。

季節割引

季節商品をオフシーズンに仕入れることで受けられる割引。

数量割引

1回毎・一定期間に規定量を超えた仕入れに対する割引。

販売促進割引

取引先商品の販売を促す活動費用の補填を目的とした割引。

業者割引

取引先業者との良好な関係に応じた割引。

◆発注数量を決める

仕入れ条件が有利だからといって、一ヵ所の取引先に絞るのはリスクがあります。もしその取引先が倒産をした場合たちまち取引先を失ってしまい、新たな仕入れ先の開拓に削減したコスト以上の費用が発生することがあります。そうならないためにも、幾つかの仕入れ業者と分散して関係を保つことが賢明です。愛顧割引の享受と、リスク分散のバランスを考慮して仕入れを行いましょう。

【納品・梱包・輸送】仕入れを始める際に必要な取り決め

◆納品場所・期限を決める

衛生面でのリスクや盗難が危惧される食品や化粧品などは、直接受け取るのが賢明です。また、納品期限が長すぎたり期限を守れなかったりするような取引先は、信用するのが難しいので外した方が良いでしょう。

◆梱包に関することを決める

過剰な梱包でコストがかかっていないかや、商品が保護できる梱包方法かを確認しましょう。

◆輸送方法、運賃負担はどうするか

運賃の負担をどちらがするかは、仕入れ原価に関わる重要な問題です。自社負担、先方負担もしくは両社が分けあって負担するのか、契約書にきっちり記載しておくべきです。

【保険・支払い・トラブル】仕入れを始める際に必要な取り決め

◆保険に関することを決める

近年は保険の種類が増え複雑化する傾向があります。適用される保険はどのようなものなのか、しっかりと理解しておきましょう。そして自社と先方のどちらが保険金を負担するのか、明確にする必要があります。

◆支払い条件(期間など)を決める

日本の商いは支払関係の基準が緩やかで、支払期限が60日(業種によっては90日)と長く設定されているケースが多いです。売り手が決めた支払期限に納得できない場合は交渉をして、双方が納得できる支払期限を設定しましょう

◆トラブル発生時の対処を決める

想定できるトラブルを挙げて対処方法を決め、契約書に反映させておくことは非常に重要です。実際にトラブルが起こったとき迅速に対応でき、新たなトラブルの発生を防止することができます。

商品仕入れの契約書の重要ポイント

続いて売買契約を結ぶときに、問題となりやすい契約書の内容について解説します。

商品仕入れの形態や仕組み

仕入の仕組みは商品メーカーから直接仕入れる方法と、卸売り業者を介して仕入れる方法の大きく二つに分けられます。メーカーは自社の商品を幅広く販売するのにコストがかかるため、一括して卸売り業者に依頼している場合が多いです。

消費者に商品を売る小売業者(実務上、販売店・代理店・特約店などと呼ばれる)は、自らの責任で商品を仕入れ在庫リスクを負います。

小売業者が商品を仕入れず、メーカーの仲介のみを行う場合がありますが、これはまれなケースです。

直接仕入れか卸業者からの仕入れかに関わらず、売買取引は継続的に行われるのが普通です。取引後に交わされる注文書などの他に、取引全般に対する売買契約書を交わすことがあります。

取引先の選び方

仕入先が倒産した場合、商品の支払いを済ませているにも関わらず、商品が引き渡されないということが起こり得ますね。取引先への依存度が大きいほど、取引先が倒産したとき自社にダメージが大きく及びます

そこで、取引先を選ぶときは信用力の調査を行うようにしましょう。社長の人柄や社内の雰囲気の他、不動産登記簿・商業登記簿・決算書類で具体的に調査する方法もあります。

不動産登記簿や商業登記簿は比較的簡単に入手することができます。決算書類は会社によって四季報の書籍やオンラインなどで確認することが可能です。

商品に欠陥がある場合の損害賠償請求

商品仕入れを続けていくと様々なトラブルが発生します。法律では一般的に、仕入れ側が一定期間内に検品をして仕入れ先に欠陥報告をすれば、返品や交換、損害賠償の請求が可能です。

損害賠償の請求は「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」といいます。売買契約書の内容によっては仕入先の責任が限定されることがあるので、契約書作成時にしっかり確認する必要があります。

細かい契約書は面倒だという場合に便利な簡易契約書

卸し先は信用に値するということなら、詳細な契約書までは必要性を感じないかもしれません。しかし、契約書の取り交わしがなく口約束だけではトラブルの元になります。

そんなことからも、5つの項目のみを盛り込んでA4用紙1枚におさめた、簡易契約書だけでも作成しておきましょう。

簡易契約書の基本項目

一から五の条項を3行程度でまとめたA4用紙の契約書を2通作り、双方で一部ずつ保管します。

<契約書の例>

株式会社○○(以下甲と記載)と株式会社△△(以下乙と記載)は、下記の条件で取引するものとする。

第一条 支払方法及び支払い先口座
第二条 締め日と支払日の設定
第三条 卸価格と購入方法
第四条 契約期間及び契約延長の方法
第五条 本契約書で定めない事柄の取り決め方

上記の内容で契約を締結しました。本契約書は二通作成し、甲と乙が一通ずつ保持することとする。

甲(売主)
株式会社○○
代表者名 印鑑

乙(買主)
株式会社△△
代表者名 印鑑

簡易契約書の契約文の具体的な例

具体的な文章の例を挙げました。以下の文章を適宜入れ替えて作成することができます。

・甲(卸す会社)と乙(仕入れる会社)は、この度、下記の条件で取引をするものとする。

第一条

乙から甲に支払う代金はすべて現金とし、指定の金融機関に振り込むこととする。支払日が銀行の休業日の場合は、翌営業日の支払いとする。
振込銀行: ~銀行 ~支店(普)・口座番号

第二条

甲が定める締め日は毎月月末とし、乙は甲へ翌月末日までに必ず支払うこと。

第三条

卸価格は定価(税抜き)の55%とする。ただし、誤出荷及び欠陥商品については、発覚次第返品を可能とする。

第四条

契約期間は2年ごとに自動更新とする。

第五条

本契約書に定めない事柄に関しては、甲と乙がその都度協議し問題解決に協力することとする。

契約書の内容をしっかりと理解しよう

契約書の雛形はWordなどでダウンロードすることができます。使用する際は内容の細部まで理解して、誤りのないように作成してください

売買契約書作成時のチェックポイント

契約書を交わすというのは売主側にとっては、支払い代金確保のために意義があるということです。契約書に不備があると買主とトラブルになったときに、代金の回収が困難になることがあります

買主側にとっては仕入れ商品の保障という観点から、売買契約書の中の「瑕疵担保責任」の項目に特に注意しなければなりません。漏れや不備があったとき、瑕疵商品による損害が買主に及ぶことが考えられます。

このように、契約書に不備があると双方にとって思わぬトラブルに発展しかねないので、売買契約書は最初にしっかり内容を把握して作成する必要があります。そこで売買契約書のチェックするべきポイントをこれから紹介します。

商品が「特定物」か「不特定物」かを定める

商品には「特定物」と「不特定物」がありそれによって、売買の成立に違いがでてきます。

◆特定物契約

一点物の中古商品など特定した商品のことです。買主側が特定物商品を得られない限り、売買契約は成立しません。しかし買主が契約の件で損害を受けている場合は、原則「損害賠償請求」は行えます。

◆不特定物契約

商品を特定せず、同等の性質をもつ商品群をいいます。例えば量産品の製品などで、新品が手に入らない場合、同等の商品の新品が手に入れば売買契約が成立することになります。

売買契約書の9つのチェックポイント

売買契約書を作成する際にチェックしておきたい9つのポイントを説明します。売買目的によって特殊な条項を盛り込まなければならない場合があります。

(1)所有権と危険負担の移転時期

所有権と危険負担の移転時期は、同じである場合や違う場合があります。その時期によって売主と買主どちらが不利になるのかが違ってきます。

    • 所有権

民法では原則、「所有権は、契約成立と同時に買主に移転する。」となっています。契約書で別の所有権の移転時期を定めない場合、次のケースでは売主に大きなリスクがかかります。

買主の財務状態が不安定
貴金属や不動産など、高額な商品の場合

よって所有権の移転時期は、代金の支払時期と同じにする事例が少なくありません。

    • 危険負担

危険負担に関する民法では特定物商品の場合「契約後は原則、買主がすべて負担する。」となっています。例えば天災で商品が滅失してしまったなど売主の責任ではない場合です。民法通りだと商品は買主が負担しなければなりません。買主は商品を受け取れないのに、支払いは継続しなければならないという状況になります。

これを回避するため、商品の所有権と危険負担の移転時期を合わせるという方法があります。

(2)検品について

一部だけを選んで検品すればよいのか、全部検品しなければいけないか、検品するのは売主か買主どちらなのかを定める必要があります。なお検査方法や合格基準も明確にしておきましょう

(3)瑕疵担保責任

特に定めなければ商法の瑕疵担保責任、は商品受領後6ヶ月とされています。6ヶ月より短い期間となる契約は避け、場合によっては次のように改定案を示しましょう。

  • 売主に重大な過失がある場合は、責任期限を設けない

(4)製造物責任

製造物責任とは、製造物の欠陥によって生じた損害の責任をいいます。多額の損害賠償責任が発生するケースがあるため、損害は誰が補償するのか、製造物責任法(PL法)に基づくのかなど責任の範囲を明確にする必要があります。

(5)商品の機能や性能の保障

不特定商品の場合、企業間で商品の「仕様書」が交わされることがよくあります。商品の性能を確認する時の条件や環境についても、よく論議されます。

(6)商品の知的財産権

特許権・商法権・著作権など商品に付随する知的財産権が発生することがあります。原則、売買契約成立に伴って、商品の知的財産権まで移動することはありません。

(7)期限の利益損失

「支払い停止・支払い不能」といった状態や「差し押さえ・破産・会社整理の申し立て」などを行った際に、「取引基本契約書」や「個別の発注書」の利益期限が喪失されます。

ビジネスにおける期限は、相手に待ってもらえる利益です。しかし、それが取引に支障をきたすような場合には期限の利益が喪失となり、相手にすぐに債務を果たすように要求できます。

(8)通知の義務

法人の名称や称号・指定口座・代表者などの情報に変更があった際に、直ちに通知する義務があります。

(9)その他の重要な条項

    • 秘密保持条項:売買に関する双方の企業が企業秘密の情報漏洩を防止するための対策や、万が一漏洩してしまった場合の罰則について規定します。
    • 契約期間条項:当事者の間で複数回の売買契約を締結する可能性がある場合に契約期間を定めて記載することがあります。契約期間は自動更新のケースや契約満了前に交渉するケースがあります。
    • 解除条項:一定の解除理由が生じた時に、売買契約を終了するという規定を定めます。
    • 権利義務譲渡禁止条項:売買契約を交わした当事者以外の第三者に、債権の引き受けを禁止します。
    • 誠実協議条項:売買契約書の範疇にない問題が生じた時、協議して解決するという約束です。
    • 合意管轄条項:一方が訴訟を起こしたとき、管轄の裁判所を決めます。

取引全体を総括する売買基本契約書

継続的に商品売買取り引きが行われるときに「売買基本契約書」を作り、取引き全般の約束事を決めます。売買基本契約書には一般的な条項だけを記載し、個別の取引きごとに売買基本契約書にない、支払方法・納入場所・検査方法などを定めることもできます。

卸売りをする場合契約書をかわす必要があるの?

これまでネットショップを運営してきたけど、オリジナル商品や輸入商品を卸したい。商社を営んでいるけどネットショップに商品を卸したい。というような場合、契約書が必要かどうかみていきましょう。

契約書を基に卸し契約をするかどうかは自由

契約書を交わすかどうかは自由です。契約書を作成する場合もあれば、メールだけで条件を提示して卸しても良いのです。口約束だけだと取り引きの証拠が残らないので、メールだけでも残しておいた方が良いでしょう。

小売業の立場からすれば、しっかり契約書を交わさないで問屋やメーカーから仕入れるケースは多いです。

代金未回収のリスクを避けるために契約書を交わす

詳細な契約書を作ると小売店側からすれば、ハードルが高くなったように感じます。

しかし卸しの立場からすれば、小売店が潰れて掛売りした商品が未払いになるのが一番の心配ですよね。

  • 卸し代金が大きい
  • 卸し先を限定している
  • トラブルが発生しやすい業界

という場合は面倒でも契約書を作った方が良いでしょう。

「未払い」の懸念を解消するために、都度支払ってもらう

小売店による仕入れのハードルを下げ、かつ未払いの不安を解消するには、注文ごとに支払ってもらう都度取引が理にかなった方法です。入金後に商品発送するネット販売と同じだと考えてください。

ネットショップでは送料の問題がでてきます。一般的に10,000円以上で送料無料になることが多いですが、雑貨などの卸しでは30,000円以上で無料にしているところが多いです。

ネット卸し販売の契約書を作る前に考えること

ネット卸し販売の契約書を作る前に、考えておかなければならない事項を見ていきましょう。

前払いを条件にした場合

前払いを条件にすると、掛売りを前提にしている業者とは取引が成立しません。しかし、ネット販売で広く卸先を募集して、いきなり掛売りにするのは少し無謀だとも考えられます。

掛売りを条件にした場合

掛売りの場合、月末締めで商品代金を集計し、翌月に請求書を発行。月末に支払ってもらうというパターンが一般的です。

例えば1月の卸し代金が5万円あった場合、2月に先方に5万円の請求書を送ります。そして先方に、2月末に銀行振込みをしてもらうという流れになります。

期限内に支払われないケースを考える

きちんと契約書で支払い条件を提示していないと、期限内に支払ってもらえないことがあります。何度も催促をしたり直接先方まで足を運んだりしないと支払ってもらえないのでは、非常に困ります。

このようなトラブル防止策として、こんな条件を提示するという方法があります。

  • 代引きで〇回以上購入したら掛売りを可能とする
  • 支払金額の合計が〇円に達したら掛売りを可能とする

仕入れに関する契約書まとめ

今回は仕入れに関する売買契約書についてお話ししました。契約後のトラブルを避けるためにも、契約書を交わすことは必要になることが多いです

内容についてよく分からないことがあれば、自分で調べてみたり専門家に相談したりして疑問点を全て取り除きましょう。初めは面倒ですが、以後のスムーズな取引きにきっと役立つはずです。

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この記事を監修した人

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