独占禁止法と独占販売権について分かりやすく解説

今日の企業活動は、独占禁止法に対する関心や懸念が以前よりも強くなっています。独占禁止法違反は、課徴金命令などの行政処分を受けるだけでなく、コンプライアンス意識が欠如した企業と見られて評判の低下を招くからです。

企業活動に携わる方にとって、独占禁止法を理解しておくことは非常に重要です。しかし、独占禁止法の条文は、他の法令と比べて文言が抽象的です。そのため、独占禁止法は「どの条文が、どのような解釈により、どう適用されるのかが分かりにくい」と言われています。

そこで、この記事では独占禁止法について詳しく解説していきます。企業活動に携わる方にとっては参考になる内容なので、是非最後までご覧ください。

目次

独占禁止法について知る

まずは、独占禁止法とは何なのか?ということについて解説します。

独占禁止法とは?

独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促進し、経済運営の秩序を維持するための基本的ルールを定めた法律です。私的独占や不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止しています。本来、自由な市場においては競争が自由であり、製造業者や販売業社は様々な工夫をして販売量を増加させることができます。

ところが、一定の市場を確保した企業は、確保した占有率をさらに増加させたり、低下させないようにと業者間で価格統制を行ったりします。このように、自由に行われるべき適正自由競争原理を否定して、自己の独占を確保、維持しようとする行為を規制する法律が独占禁止法なのです。

不公正な取引方法の禁止

不公正な取引方法の場合、事業者が不公正な取引方法を用いるときは第19条、事業者団体が不公正な取引方法に該当する行為を事業者にさせるときは第8条、国際的契約で不公正な取引方法に該当する事項を内容とするものがあれば第6条で規制されています。

公正取引委員会による一般指定では、以下の16項の行為類型が不公正な取引方法として指定されています。

1.取引拒絶(一般指定 1項、2項)
2.差別対価・取扱(3項、4項、5項)
3.不当廉売 (6項)
4.不当高価購入(7項)
5.ぎまん的あるいは不当顧客誘引(8項、9項)
6.抱き合せ販売等(10項)
7.排他条件付取引(11項)
8.再販価格の拘束(12項)
9.拘束条件付取引(13項)
10.優越的地位の濫用(14項)
11.競争者に対する取引妨害(15項)
12.競争会社に対する内部干渉(16項)

独占禁止法の基本概要とは?

次に、独占禁止法の基本概念や判例を紹介していきます。まず、独占禁止法の基本概要を図で示すと以下のようになります。

独占禁止法の目的

先で述べた通り、独占禁止法は、消費者の利益確保や国民経済の健全な発達などを最終到達地点に置いた上で、「事業者による、公正かつ自由な競争の促進」を目的としたものです。競争の妨げになる行為や不正な取引などを禁止することで、経済全体がうまく回るようにしています。

例えば、スマートフォンを製作するメーカーが集まり、スマートフォンの価格を2万円に固定するという価格協定がなされた場合、本来行われるべき価格競争が失われてしまいます。そのため、こうした価格協定行為は独占禁止法によって規制され、入札談合も禁止されているのです。

独占禁止法の規制内容

独占禁止法の主な規制内容としては、以下の通りです。

・私的独占の禁止
・不当な取引制限(カルテル)の禁止
・不公正な取引方法の禁止
・企業結合の規制
・事業者団体の規制
・独占的状態の規制
・下請法に基づく規制

上記の中でも主要項目である「私的独占」「不当な取引制限』「不公正な取引方法」「企業結合」「下請法」について詳しく解説します。

私的独占とは?

私的独占とは「事業者が、販売価格を不当に低く設定するなどして、他の事業者を排除したり、新規参入を妨害したりする行為」のことです。(独占禁止法第2条5項・独占禁止法第3条)

私的独占が行われると、価格や品質などに優れる新規参入者が排除されてしまいます。そのため、競争相手がいなくなり、結果として消費者のための企業努力が行われなくなる恐れがあります。

【判例】

2002年ごろ、通信会社であるA社が、提供するサービスの料金を他社との競争を意識して低価格に設定しました。東京高裁は、この行為を「独占禁止法違反にあたる」として違法宣言審決を下しました。

不当な取引制限とは?

不当な取引制限とは、「複数の事業者が、他の事業者との競争を回避するために、カルテルや入札談合など事業者同士で合意を結び、実質的に競争を制限する行為」のことです。(独占禁止法第2条6項・独占禁止法第3条)

不当な取引制限によって、特定の商品の価格が引き上げられた場合、消費者はこれまで購入できていた金額では購入できなくなります。

【判例】

1987年、樹脂製品を製造販売する8社が情報交換を行い、合意の上で価格の引き上げを行いました。この行為について『独占禁止法違反にあたる』として違法宣言審決が下されました。その後、一度は審決取消請求が行われたものの、東京高裁にてその請求は棄却されました。

不公正な取引方法とは?

不公正な取引方法とは、「取引の際、不当な対価を用いたり、他の事業者を差別して扱ったりするなどして、市場競争を制限する行為」のことです。(独占禁止法第2条9項1号~5号・独占禁止法第19条)

不公正な取引方法によって、安価で販売する販売店への商品供給が禁止された場合、「不当な取引制限」と同様に消費者にとってのメリットが失われるケースもあります。

【判例】

2009年ごろ、コンビニのフランチャイズチェーンを運営する会社が、他店に対して見切り販売を取りやめるよう命じました。この行為に対して裁判所は、「他店の経営に大きな影響を及ぼすものであり、独占禁止法で定められている『不公正な取引方法』に該当する」として、損害賠償約1,100万円の支払いを命じました。

その他独占禁止法が規制する主な行為

その他の独占禁止法が規制する主な行為としては以下の通りです。

・特定の事業者と取引をしない、させない(取引拒絶)
・同製品の価格を人や場所で差別すること(差別価格)
・不当に安い価格での販売(不当廉売)
・買占めなど不当に高い価格での購入(不当高価購入)
・虚偽・誇大広告、過大景品により顧客を誘引する行為
・他の製品と抱き合わせて販売する行為
・競争者と取引しないことを条件として相手方と取引する行為
・商品の販売価格を相手方に自由に決めさせない行為
・相手方の取引先や販売先を拘束する行為
・自己の超越した地位を利用して相手方に不利益な条件をつける行為
・競争相手の取引を妨害したり、不利益となる行為を誘引・強制する行為

企業結合とは?

企業結合とは、「複数の企業が、合併を行うなどして結合すること」のことを指します。企業結合によって市場が独占状態になれば、他の事業者による競争がなくなってしまうことも考えられます。

そうなると、消費者は特定企業の商品しか購入できなくなり、これまでのメリットが失われる可能性もあります。独占禁止法では市場競争の促進のため、「他の事業者による競争を制限するような企業結合」について禁止しているのです。(独占禁止法第10条、独占禁止法第13条~17条)

下請法による規制とは?

下請法とは、「親事業者による、下請事業者への対応について規制する」法律です。「下請事業者の利益保護」や「経済の健全な発達」などを目的として制定されました。(下請法第1条)

下請法の主な規制内容は以下の通りです。

・下請代金の支払遅延の禁止
・下請代金の減額の禁止
・返品の禁止
・買いたたきの禁止
・購入・利用強制の禁止

独占禁止法に違反した際の罰則と処分

独占禁止法に違反した場合、民事上の処分や行政処分、刑事処分などによって制裁が科される可能性があります。

1.民事上の損害賠償処分

民事上の処分としては、違反行為を止めるよう命じる「差止請求権の行使」や、損害賠償金の支払いを命じる「損害賠償請求権の行使」などがあります。この処分は、故意や不注意がなくても責任を負う無過失責任になります。

無過失責任とは、不法行為で損害が生じたとき、加害者に故意や過失が無くても損害賠償責任を負うことです。民法第117条、民法第570条、会社法第428条などがこれに該当します。

2.行政処分

行政処分としては、違反行為を止めるよう命じる「排除措置命令」や国庫に課徴金を納めるよう命じる「課徴金納付命令」などが挙げられます。

課徴金は、違反行為が行われた期間の売上額を基に、企業規模や業種を考慮した上で算出されます。課徴金の算定率は以下の通りです。

また、違反行為を繰り返した場合などは算定率50%の増額措置が適用されます。違反行為を早期に取りやめた場合は算定率20%の減額措置などが適用されることもあります。(独占禁止法第7条の2)

3.刑事処分

刑事処分については、法人としてだけでなく個人として責任が問われるケースもあります。

罰則内容は違反行為によって異なりますが、私的独占や不当な取引制限などの場合、法人は「5億円以下の罰金」、個人は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。(独占禁止法第89条1項1号・2号)

また、排除措置命令に従わない場合、法人は「3億円以下の罰金」、個人は「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。(独占禁止法第90条3号)

独占販売権について

続いて、独占販売権について解説していきます。まず、独占販売権とは、商品の取扱地域を制約して独占的に販売できる権利のことです。

独占販売権の設定をする際、競争関係にある事業者間による総代理店契約を結ぶ場合は注意が必要です。公正取引委員会の独占禁止法に抵触する恐れがあるからです。一方で、通常の代理店本部が代理店に対して販売地域を定めることは独占禁止法に抵触しません。

独占販売権を獲得するための交渉手順

では、独占販売権の交渉はどのように進めれば良いのでしょうか?まず初めに、自分とサプライヤーの利益は反するということを理解しておく必要があります。

自分が独占販売権を獲得する目的は、その商品の市場を独占することですが、サプライヤーは、日本市場に複数の取引相手を持つことが目的です。その理由は、取引相手が多ければ多いほど売上が伸びると思っているからです。だからこそ、「自分1人に販売を任せることの利益が相手の利益に繋がる」ということを理解させ、納得してもらう必要があります。

具体的には、次の手順で交渉すると良いでしょう。

輸出先を1社に絞るメリットを伝える

その1社が自社である必要性を解説する

その1社があなたでない場合のデメリットを伝える

市場における自社の優位性を再度強調する

具体的な販売目標を示す

契約書にサインをもらう

日本に複数の顧客を持てば、瞬間的に売上が伸びることは事実です。

しかし、将来的には必ず競合が起きます。競合の多い商品は誰でも嫌なので次第に手を引くようになり、最終的には日本市場で誰も取り組まなくなります。このことをサプライヤーに強調して説明するのです。加えて、自分にビスネスを任せることのメリットや、自社がその商品の分野でいかに優位性を持っているかを語ります。

最後は具体的な販売目標数字(セールスターゲット)を提示すればOKです。ただ、販売目標数字を示す場合、あくまで目標であることを強調しなければいけません。後々のトラブル回避のためにも、販売保証数字(セールスギャランティー)ではないことをあらかじめ明確にしておく必要があります。

海外で販売を行うために販売店・代理店を選定する際の留意点とは?

国際取引において、自社の海外拠点を設置するためは多額の資金が必要です。そのため、海外の企業と提携して自社商品の市場開拓や販売促進を任せるケースがあります。このような現地企業を「販売代理店」や「特約店」と呼ぶことがあります。

しかし、法律的には「販売店」にあたる場合と「代理店」にあたる場合がありますので、双方を混同しないように注意しましょう。それぞれ以下のような法的性質、経済的機能がありますので、自社にとって適切な選択をすることが重要です。

1.独占権の設定

販売店・代理店どちらの形態でも、一定の商品に関して一定の地域において専属的な独占権を与えるべきかは重要な決定事項です。独占権を与える場合、売主は自己の商品を他の者に販売させないようにする義務を負います。また、売主自身も販売できないという義務に合意するケースもあります。

なお、契約書上「独占代理権の設定」と記載しただけでは、売主自身による販売も規制されるかは明確ではないため、その点を明記した方が良いです。独占権を与える場合は、自己の販売チャンネルを限定することになります。そのため、販売数量について一定のコミットメントを求めるなど、販売拡大ができない場合に専属的な独占権を解除できるようにしておくべきです。

2.総代理店に関する独占禁止法上の規制

販売店・代理店に独占権を与える場合、販売地域の独占禁止法に抵触しないかを確認する必要があります。特に契約の条項が独占禁止法上違反となる場合には、当該条項は無効、もしくは執行不能になることがあるからです。

例えば、日本の独占禁止法においては、ある事業者に日本国内市場全域を対象とする一手販売権を与える場合、以下の点が独占禁止法上問題となります。

・総代理店、または総代理店から購入して販売する事業者の販売価格を制限すること
・総代理店、または販売業者の競争品の取扱いを制限すること
・総代理店、または販売業者の販売地域に関して制限すること
・総代理店、または販売業者の取引先を制限すること
・総代理店、または販売業者の販売方法を制限すること

日本の独占禁止法と同じ規制が販売地域の独占禁止法に定められているとは限りません。しかし、こうした制限を設けようとする場合には留意する必要があります。

3.並行輸入の不当阻害に関する独占禁止法上の規制

並行輸入の不当阻害も独占禁止法上の問題となるケースがあります。例えば、総代理店契約が輸入品について行われる場合、第三者が契約当事者間のルートとは違うルートで契約対象商品を輸入することがあります。こうした真正商品が並行輸入されて販売されると商品価格のげらくにつながります。

そのため、総代理店としてはこうした真正商品を阻害したくなることがあるでしょう。しかし、そのような行為は日本の独占禁止法において問題となるため、この点でも留意しておいた方が良いでしょう。

まとめ

今回は独占禁止法や独占販売権について詳しく解説しました。違反した場合は、民事上の処分だけでなく、行政・刑事処分を受ける可能性もありますので、十分注意しましょう。

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この記事を監修した人

ビジネスのノウハウを実践ベースで徹底的に追求するのがアクシグ。
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