越境ECという言葉を聞く機会が増えてきました。
越境ECというのは、国を超えたEC(electronic commerce 電子商取引)のことを指します。
たとえば、アメリカのAmazonの商品は世界中で購入することができます。
近年、経済成長が著しい中国にもアリババグループの天猫国際があります。
越境ECなら、日本国内にいながら世界中の顧客を相手にできますから、大きなビジネスチャンスがあります。
この記事では越境ECを可能にする海外ECサイトについてご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
拡大し続ける越境EC市場
通販というと昔はテレビや雑誌で商品を見て電話で欲しいものを注文したものですが、現在ではネット通販(ネットショッピング)が主流です。
「ネットショッピングをしたことがない」という人の方が珍しいのではないでしょうか。
これも全てインターネットが国民の大多数に普及したからです。
スマホの利用が増えた現在では、ネットショッピングはより身近なものになっています。
そして、このようなネットを通じての商品の流通は簡単に国境を越えます。
これが越境ECです。
この越境ECの規模はかなり大きく、平成29年度に中国の消費者が日本の事業者から購入した額は、1兆2978億円にも及びます。(経済産業省「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」による)
これは、中国人観光客による買物代としての旅行消費額が8033億円であることと比較すると、その大きさが実感できると思います(観光庁「【訪日外国人消費動向調査】2018年全国調査結果(速報)」による)。
そして、先ほどご紹介した経済産業省の資料によれば、電子商取引の規模は、これからも拡大していくことが予測されていて、世界のBtoC電子商取引市場規模は2021年まで対前年比2桁の成長が見込まれています。
また、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)によれば、世界のインターネット普及率は2018年末までに51.2%に達するとのことですが、これは今後も増加していく見込みです。
インターネットの普及は、越境ECの市場の拡大を後押しすることになるでしょう。
越境ECのメリットは?
このような現状と将来予測を見ると、越境ECこそが大きなビジネスチャンスであることはお分かりいただけるのではないかと思います。
そして、越境ECには、海外で実店舗を構えるよりもコストが格段に低いというメリットがあります。
ECでは、実店舗よりも出店コストは安く、店舗に現物を用意する場合に比べて在庫リスクも減らせます。
現在では、日本の製品に対する認知度が上がり、「日本製品」の人気が高まっています。
特に、所得が増え中間層が増えている中国では、多少高くても国内製品よりも日本製品が欲しいという人が増えていて、今度も有望な市場になることが予想されます。
越境ECにデメリットはあるか?
このように越境ECには多くの魅力があるのですが、デメリットについても考えてみます。
大きな問題になるのは集客です。
越境ECの場合、集客というのは、どれだけ多くの人にサイトを訪問してもらうかということになります。
ネット上で顧客を集めるには、Googleのような検索サイトで上位に表示されることが不可欠なのですが、そのための対策(SEO対策)には専門的な知識も要求され、簡単には実行できないのです。
海外の消費者に関する情報を知る
越境ECを成功させるためには、海外の消費者についてもある程度知っておく必要があります。
ここでは、海外の消費者に関する情報をご紹介します。
日本、アメリカ、中国の越境EC市場規模
まず、日本と、特に大きな市場であるアメリカ・中国の市場規模について見てみましょう。
参考にするのは、先ほども使った経済産業省作成の資料「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」です。
以下は、日米中3国間での購入額の比較です。
日本が越境ECでアメリカ・中国から購入した額は、2017年の推計で2570億円、対前年比7.3%の成長でした。
そして、アメリカが日本・中国から購入した額は、1兆2070億円、対前年比15.9%の成長でした。
これらに対して、中国が日本・アメリカから購入した額は、2兆7556億円、対前年比26.8%の成長です。
中国の越境ECの市場規模が大変大きな成長を見せていることが分かります。
中国市場を狙った越境ECは、高いポテンシャルを持っているといえそうです。
アメリカの消費者動向
次に、アメリカの消費者が「越境ECを利用する理由」「利用しない理由」を見てみます。
参考資料は先ほどと同じです。
利用する理由として、
- 比較的安い価格で商品を購入できるため…43%
- 国内にはないユニークな商品が欲しいため…36%
- 好きなブランドや商品が国内では購入できないため…34%
という結果です。
これに対して、利用しない理由では、
- 国内ECサイトで十分なため…38%
- 興味がなく利用経験がないため…28%
- 返品が面倒そうなため…25%
- 配送に時間がかかりそうなため…24%
などとなっています。
日本人が越境ECを使う際・使わない際の理由とあまり違いはないようにも思えますが、こういった傾向があるということは、消費者ニーズを掴むためには、知っておくべき知識といえます。
越境ECサイトには、どんな問題があるか
ここからは、越境ECサイトを利用する際の問題点について考えていきます。
自分が越境ECサイトを構築する、あるいは既存のものを利用する際の参考にしてください。
自社サイトにするか、他社サイトを利用するか
最初の問題点は、自社でサイトを構築・運営するか、他社のサイトを利用するかです。
自社サイトは、自分たちで作るわけですから、自由度は高くなります。
他社サイトを利用する場合のように手数料などが発生することもありません。
一方、自社のサイトに集客をするのは難しく、ここが大きな欠点です。
他社サイトを利用する場合は逆に、自由度が低くなり、手数料などの費用が発生します。
ただ、Amazonのような大手サイトは非常に高い集客力があります。
この点が魅力です。
ただし、サイト内の他のモールとの競争も発生する可能性が高いので、この点は覚悟しておく必要があります。
言葉の壁の問題
これは越境ECについて回る問題です。
越境ECサイトは日本語で運用するわけにはいきません。
英語か、場合によっては中国語でサイトを運営する必要が出てきます。
ユーザーとのやり取りは、翻訳ソフトなどを使ってもある程度はできますが、機械翻訳には限界もあります。
特にこれから有望な市場である中国に目を向けたとき、現地の言葉でサイトを運営できないと、消費者にアピールするのは難しいでしょう。
各国の通貨や決済方法への対応
言うまでもないことですが、国が違えば通貨も違います。
どの通貨での決済に対応できるようにするかも大きな問題です。
また、欧米で広く利用されている決済手段として、PayPalというオンライン決済サービスがあります。
欧米向けの越境ECならPayPalを利用することは有効ですが、同じようなオンライン決済サービスでも、中国ではAlipay(アリペイ)やWeChatPay(ウィーチャットペイ)が一般的です。
拡大していく中国市場を視野に入れるならば、こういった決済手段を導入することも検討しなければいけません。
商品の発送
商品の発送も越境ECでは問題になり得ます。
越境ECでの商品の発送は国際便ということになり、日本国内ほど配送事情が良くない国も多いからです。
また、海外に商品を発送することは商品を輸出するということですから、税関での手続きについても考慮する必要が出てきます。
自社内で行うことが手間やコストの面から難しい場合は、配送関係の手続きを代行してくれる業者を使う方法もありますので、これらの利用も含めて検討する必要があります。
トラブル対応できる体制を作る
トラブル対応をどうするかも大きな問題です。
言葉の問題などで相手の理解が得られず、返品などが発生すると収益を圧迫することになります。
現地の言葉が分かるスタッフを雇うのも方法の一つですが、人件費も発生しますし、多言語に対応するには限界もあります。
コスト面とのバランスも取りつつ対策を検討しなければなりません。
ECサイトの3つのタイプ
先ほどは自社サイトと他社サイトという区分でお話しましたが、もう少し詳しく分析すると、ECサイトは3つのタイプに分類することができます。
- 自社ECサイト
- ショッピングモール出店型
- ショッピングモール出品型(マーケットプレイス型)
の3つです。
以下では、これらをご説明します。
なお、以下の説明の中でご紹介しているサイトには、越境ECサイトとしての性格が薄いものも含んでいますが、ご容赦下さい。
タイプその1 自社ECサイト
1つ目のタイプは、自社で構築・運用する自社ECサイトです。
自社で製造した商品を販売しているオンラインショップや、実店舗での販売を行っていた企業がネットでも販売を始めたといったケースがこれに当たります。
前者の例として、
ユニクロ公式オンラインストア
後者の例として、
ヨドバシ.comといったところがあります。
自社ECサイトは、サイトのデザインや集客のための施策などが自由にできるメリットがありますが、集客をするのが大変です。
もともとの自社の知名度やブランド力が高くないとサイトに人を集めるのが難しいため、新規に始めて成功するためには、マーケティングを上手くできるかが鍵を握ります。
タイプその2 ショッピングモール(出店型)
他社が運営するサイト上に、あたかもショッピングモールのようにお店を出店するタイプです。
楽天市場やYahoo!ショッピングがこのタイプで、実際に商品を販売しているのは、サイトに出店しているそれぞれのショップです。
自社ECサイトの場合と違って、モール型のECサイトには、サイト自体が多くの顧客を抱えているという大きなメリットがあります。
集客に力を割かなくても、最初からある程度の売上を上げられる可能性を持っています。
ただし、有名で大規模なモールほど、モール内での他社との競争が激しくなりますし、運営会社に支払う初期費用や手数料がコストとして発生します。
タイプその3 ショッピングモール(出品型)
Amazonがこのタイプの典型です。
サイトに個々の商品を出品するという形になります。
自社ECサイトの対極にあるようなシステムで、サイトのデザインや集客の施策などは、ほとんど自由になりません。
一方で、Amazonのような巨大モールになると、絶対的な集客力があるので、他社よりも低価格の商品を販売できる場合などは、高い売上を見込めます。
ただ、販売する際には手数料等のマージンの支払いがあるので、その負担があります。
また、買い物をする客の立場からは、Amazonの印象が強すぎて、ショップの印象は残りにくいというのが大きな欠点です。
例えば、Amazonの販売ページは、以下のような感じです。
顧客は、Amazonと商品そのものしか見ていない形になりやすいので、
- 毎回最安値の商品を探して買うだけでショップのファンにはなってくれない
- リピーターになりにくい
そんな欠点が出品型のショッピングモールにはあります。
それぞれのタイプの特徴を見極めて、どういった形でECを行うべきなのか検討してください。
海外ECサイトの注目株
ここからは、海外のECサイトから今後注目すべきものをいくつかご紹介します。
越境ECが大きなビジネスチャンスとなっている現在、どのサイトとの連携を模索していくべきか、参考にしてください。
Tmall(天猫)、Tmall Global(天猫国際)
Tmall(天猫)とTmall Global(天猫国際)は、中国のアリババグループが運営するECサイトです。
天猫はテンマオと読みます。
- Tmall(天猫)は中国の国内法人向けのECサイト
- Tmall Global(天猫国際)は海外法人向けのECサイト
という位置づけです。
越境ECで利用したいサイトは、Tmall Global(天猫国際)ということになります。
Tmall(天猫)及びTmall Global(天猫国際)は、中国のECサイトで最大規模のもので、年間購入客数は6億人を超えており、月間モバイルアクティブユーザー数も7億人に迫る勢いです(2017年4月1日~2018年3月31日 Alibaba JAPAN HPより)。
累計流通額は84兆円、中国小売マーケットプレイスにおけるモバイル累計流通額のシェアは86%にもなります。
サイトの規模が大きいということはそれ自体がメリットの一つになりますが、日本の企業が進出するにあたっては、もう一つのメリットがあります。それは日本の商品の人気の高さです。
2017年の天猫国際の国別売上ランキングでは、日本は1位になっており、累計流通額は前年比でプラス122%という高い伸び率を示しています。
天猫は、中国で多かった粗悪品や偽物を排除して正規品を扱うことで人気を集めてきたECサイトなので、出店にあたっては出店基準をクリアする必要があります。
出店のハードルはそれなりに高いのですが、中国の市場を狙うなら最初に参入を考えるべきECサイトの一つといえます。
京東(JD.com)
京東(JD.com)は、中国のBtoCのEC市場で天猫に次いでNo.2のシェアを誇るECサイトです。
ちなみに、京東はジンドンと読みます。
天猫がTmall Global(天猫国際)を作って、越境ECに力を入れているように、京東も京東全球購(JD Worldwide)という越境ECサイトを立ち上げました。
それが2015年のことなのですが、京東は京東全球購(JD Worldwide)を更にアップグレードさせて、現在では海囤全球(英語名の表記は変更なし)という越境ECサイトを運営しています。
そして、日本には、JD.COM JAPANがあり、日本企業が中国の越境EC事業に参入するのをサポートしてくれます。
越境ECに力を入れていて、先方が日本企業の参加を望んでいるのですから、京東(JD.com)も、中国市場を見据えた越境ECを始める上で、有力な海外ECサイトの一つといえるでしょう。
メルカリ(米国版)
多少わき道にそれますが、アメリカのメルカリについてもご紹介しておきます。
日本で誕生したフリマアプリであるメルカリは、アメリカにも進出を果たしています。
2014年9月にアプリをリリース、2016年6月には1000万ダウンロード、2017年11月には3000万ダウンロードを達成しています。
一時期はかなりの盛り上がりを見せていたのですが、現在では成長スピードが遅いとも指摘されるようになってきています。
そして、メルカリは、イギリスにも2017年3月に進出しています。
しかし、こちらは2019年の初めには撤退しています。
アメリカでの将来的な展望には不透明な点もありますが、日本発のEC事業として注目していきたいところです。
なお、現在のところ、日本のメルカリを使って商品をアメリカに売ることや、アメリカのメルカリを使って商品を日本に売ることはできません。
少なくとも現在は、越境ECの手段としてメルカリを使うのは、難しいかもしれません。
Amazon India
最後にご紹介する海外ECサイトはAmazon India、インドで展開しているAmazonです。
インドは、人口が2017年現在で13億人を超えていて、2030年までには中国を抜いて世界一の人口になるとも予想されています。
そして、人口の半数が24歳以下であり、これから経済発展を遂げていくであろうことが確実視されている国です。
2025年には日本を越える経済規模になることが予測されています。
これだけのポテンシャルを持った国ですから、越境ECでもターゲットとして考えるべきといえるでしょう。
しかし、日本の企業が越境ECで進出するためには、インドというのは馴染みのない国です。
日本とは異なった商習慣もあり、自社で直接参入するのはかなりの困難が予想されます。
そこで、ここではLinkyという企業が展開している「IndiCart」というサービスをご紹介しておきます。
IndiCartは、インド越境ECをトータルサポートしてくれるサービスで、ショッピングモールへの出品、配送、顧客対応からマーケティングまでカバーしています。
成長市場であるインドに早めにアプローチしたいなら、こういったサービスを利用することも検討すべきです。
まとめ 越境ECに活路を見出そう
この記事では、越境ECや、そのために利用できる海外ECサイトなどについてご説明しました。
少子高齢化が進む日本では、今後も消費の大きな伸びは期待することができません。
将来的に売上を拡大していくために、海外にも目を向けたいという企業は多いはずです。
この記事を参考に、越境ECにもチャレンジして、ビジネスチャンスを掴んでください。