販売機会損失の原因と防止策について徹底解説

多くの人は目に見える費用ばかり気にします。しかし、世の中には「目に見えない費用」が存在するのです。この「目に見えない費用」こそが、今回取り上げる「機会損失」です。

販売機会損失とは、「違った選択をしたせいで本来得られたはずの利益が得られなかったことを損失とみなす」ということで、要するに「たられば」のお話です。

「ああしていれば、もっと利益が出ていたのに」とか「こうしていれば、こんなに損しなかったのに」と反省することで、見えない損失を明確にし、改善していくことで未来の利益へとつなげていくのです。

この記事では販売機会損失の原因や防止策について解説していきます。

目次

機会損失とは

機会損失とは、見かけ上は損失が出ていないが、最善の選択をしなかったために得られたはずの利益を逃したことで生じる損失のことです。「儲ける機会を逃した」という意味から「チャンスロス」とも呼ばれます。

これは、実際に商品やサービスを提供した結果として生じた損失とは異なるので、気をつけましょう。

機会損失の具体例

ここでは機会損失についての具体例をいくつか挙げていきます。

パターン(1)
保険会社Bは、自社の保険にAさんが加入することで合意した。しかし、B社の諸事情で契約までに時間がかかってしまい、結局Aさんに契約を破棄されてしまった。

パターン(2)
ある雑貨屋さんで、Cさんは現金の持ち合わせがなく、商品購入の際にクレジット決済を希望した。しかし、そのお店がクレジット決済に対応しておらず、Cさんは商品の購入を断念した。

パターン(3)
スーパーでカップラーメンのセールをしたところ、予想以上の売れ行きで午前中に在庫がなくなり売り切れた。午後からも多くのお客さんがそのカップラーメンを求めて来店したが、在庫切れにより売ることが出来なかった。

上記が機会損失の代表的な例です。いずれも購買意欲のある顧客に商品を提供できなかった結果、儲けるチャンスを逃しています。

飲食店における機会損失

飲食店などにおいては、店舗での注文・提供のオペレーションが販売機会損失を招きます。

例えば、商品の提供スピードが遅いとクレームが入ったり、逆に提供を急ぐあまり雑な対応になり、不快に思った顧客が来なくなってしまったりすることがあります。こうした場合、将来的な機会損失の恐れもあります。

大手の飲食店などでは機会損失を防ぐために、どのようなオペレーションが最適か徹底的に研究しマニュアルが作られています。その結果、無駄のないオペレーションが可能であるといわれています。店舗を運営している場合は、一度オペレーションが適切であるか見直してみましょう。

機会損失と機会費用の違いとは

機会費用とは、「他の選択肢を選んでいれば得られるはずだった利益」のことです。これは機会損失と似ているのですが、同じような状況でも微妙に異なります。

具体例を挙げてみると、

Aさんは、会社の終業時間になってもまだ仕事が残っていたので2時間程残業しようと思ったが、同僚から食事に誘われたので、そちらに行くことにした。

この場合、残業する選択肢を選んでいたら残業代の4,000円が稼げたわけです。しかし、同僚との食事という選択肢を選んだために、残業代4,000円を得られませんでした。この4,000円が「得られるはずだった利益」で、「機会費用」ということになります。

機会損失と機会費用の違いをまとめると、
・機会損失は、「ある選択をしなかったことによって生じた損失」
・機会費用は、「最善の選択をせず、他の選択をしたことにより失われた利益」

在庫と機会損失の関係

在庫には、品切れによる「販売チャンスの逸失」という機会損失を防ぐ役割があります。しかし、一方で在庫を持つことで発生する機会損失というものもあるのです。

ここでは、在庫を持つことによる下記3つの機会損失についてご紹介していきます。

・得られたはずの金利の損失
・スペースの損失
・投資チャンスの損失

得られたはずの金利の損失

在庫を倉庫に置いておくだけでは、全く利益は生まれません。

確かに適度な在庫量であれば、品切れによる機会損失を防ぐことはできますが、多過ぎると問題となるのです。仮に、その分の金額を銀行預金や運用にまわしていたとすれば、「そこで得られるはずだった金利が得られなくなる」といった、違った意味での機会損失が発生するのです。ですから、在庫を持つ際はバランスを考えなければなりません。

この場合の機会損失の例を挙げると、

8,000万円分の在庫を2年間、倉庫に放置してあったとします。

在庫分の8,000万円を現金で保有していたとして、銀行や運用にまわすと仮定してみます。そこで、得られる金利が0.1%とすると、8,000万✕0.1%✕2年=16万円となります。

この場合だと、「在庫を持ちすぎている」ということは、違う視点でみると「2年で16万円損している」という見方ができるのです。

このように、必要以上に在庫を持つことは、合理的とは言えません。常に在庫の量を意識して、計画的に運用していきましょう。

スペースの損失

在庫を持つには、「場所」が必要です。

そして、その「場所」は、一切の利益も価値も生まない「デットスペース」となります。デットスペースを保有していても、ビジネスにおいてはデメリットでしかありません。

ですから、必要な在庫量を把握し、少しでも無駄なスペースを減らすようにしなければなりません。

例えば、空いたスペースを作業場や休憩室などにすれば、従業員のモチベーションが上がるでしょう。この方が、断然価値のあるスペースの利用方法だと言えます。

投資チャンスの損失

余剰在庫を持つことは、大きなチャンスを逃すことに繋がります。余剰在庫相当のお金を以下のような目的に投資したとしましょう。

・新商品の開発
・優秀な人材の確保
・作業効率をあげる為の設備投資

このような目的のために投資すれば「生産性の向上」や「組織の活性化」などが期待できるので、有益なお金の使い方となることは確実です。

在庫を持ちすぎることは、これだけのチャンスを棒に振っていることを意味します。

機会損失の原因・トラブル

ここでは機会損失の原因と、それが引き起こす問題やトラブルについて紹介していきます。

機会損失の内部的な原因

機会損失が発生する大きな原因の一つは、販売者側が顧客のニーズをしっかり理解できていないことにあります。

主な原因としては、「仕入れ不足」や「在庫切れ」が挙げられます。

これらを防ぐには、日々の商品の売れ方に気を配り、徹底した在庫管理を行うことが必要です。そうすれば、機会損失が生じたとしても、予測の範囲内に収めることができるのです。

機会損失の外部的な原因

機会損失が発生する外部的な原因として、「顧客」や「他社」「社会の変化」が関わっている場合があります。

「顧客」の具体例・・・クライアントからの一方的な契約解除
「他社」の具体例・・・競合他社に仕事を奪われる
「社会の変化」の具体例・・・社会情勢の変化によって見込んでいた売り上げが立たなくなる

このように自社ではどうしようもない理由で機会を損失してしまうケースは多々生じます。これを外部的な原因として考えます。

機会損失に対する損害賠償

機会損失によって起こる問題には、損害賠償訴訟にまで発展するケースもあります。

<具体例>
A社は、B社から3ヶ月後にオープンする予定の販売サイトの制作依頼を受け、これを請け負ったが、諸事情によりオープン直前で契約の破棄を申し出た。

これが原因で、B社は予定日に販売サイトをオープンできなくなり、本来得られるはずだった利益が得られず、損失が発生した。

これが、B社の機会損失。

ここでB社がA社に損害賠償の請求ができるかが問題となるのですが、重要なのが損害の発生を証明出来るかどうかです。

機会損失とは実際に起こっていないことを想定したうえでの損失なので、損益を明確に出すことは難しいのです。

しかし、その証明は不可能なわけではありません。証明に成功した場合の損失額が多額になる可能性を考慮すると、自己だけでなく他者の機会損失を招くような行動も厳に避けるべきです。

チャンスロスの防止か廃棄ロスの防止か

食料品販売店や飲食店においては、どれだけ綿密に見込み客を予測しても、毎日ピッタリ必要分だけを仕入れることは不可能です。予期せぬ天候不良や社会情勢により、客足が急に途絶えることもあります。

その際、需要に対し仕入れが少な過ぎれば「チャンスロス」、多過ぎれば「廃棄ロス」となり、どちらにしても損失が発生します。

では、どちらの「ロス」を防止することで、トータルとしての損失を抑えることが出来るのでしょうか。

以下で、具体例とともにポイントを解説していきます。

チャンスロス防止・廃棄ロス防止の選択のポイント

実は、「チャンスロス防止」と「廃棄ロス防止」のどちらを選択するべきかは、原価率と利益率の関係によって決まります。

<具体例>
チャンスロス・廃棄ロスがそれぞれ100個発生した場合で考えてみましょう。

・商品Aは、販売価格100円で原価率30%、利益率70%とします。
チャンスロスは、売り上げが見込まれた部分の「利益」が損失となるので、70円(利益)✕100個=7,000円(損失)
廃棄ロスは、作り過ぎた部分の「コスト」が損失となるので、30円(コスト)✕100個=3,000円(損失)
この場合、7,000円(チャンスロス)÷3,000円(廃棄ロス)=2.33なので、チャンスロスが廃棄ロスの2,3倍の損失となります。

・商品Bは、販売価格100円で原価率70%、利益率30%とします。
チャンスロスが、30円✕100個=3,000円(損失)
廃棄ロスが、70円✕100個=7,000円(損失)となります。
この場合は逆に、廃棄ロスがチャンスロスの2.3倍の損失となります。

まとめると、

・利益率が上がる(原価率が下がる)ほど、チャンスロスの影響が大きくなるので多めの仕入れが望ましい。
・原価率が上がる(利益率が下がる)ほど、廃棄ロスの影響が大きくなるので必要以上に仕入れはしないことが望ましい。

機会損失を未然に防ぐ

どんな場合でも損失を防ぐには事前に準備するしかありません。特に、機会損失は売る側の事情によって起こるものですから、事前に予測できることも多いです。どういったことに注意するべきかを理解し、機会損失の防止に努めなければいけません。

販売戦略を見直す

機会損失を防ぐためには、顧客のニーズを把握した、しっかりとした販売戦略を立てることが必要です。自社の製品やサービスを正確にデータ化し、分析・解析した上で最適な販売体制を整えるようにしましょう。

具体的には、POSデータやお問い合わせ数、HPの閲覧状況などさまざまなデータを収集し、分析・解析した上で、関係部署との調整を行い、生産数を増減するなど、データをもとに戦略を立て直します。

販売戦略をしっかり見直すことができたら、生産、管理、物流、宣伝広告、マーケティングなど、販売活動に関わるあらゆる面で戦略を見直してみることも必要です。販売戦略をしっかり遂行できるよう、環境整備や見直しも定期的に行いましょう。

管理体制の強化

管理体制を強化することも、機会損失を防止する対策として重要です。安定した企業運営には、さまざまな数値の管理が欠かせません。

例えば、最適量の在庫を保持し続ける「在庫管理」を強化することで、余剰在庫や品切れを起こさず、いつでも顧客が求める商品を提供することが可能になります。併せて、日々の「販売管理」をすることで、売れ筋商品や顧客ニーズを把握し、仕入れ値や販売価格をこまめに見直し、適宜調整することも重要です。

適正な管理体制を整備することによって、顧客のニーズを逃すことなくキャッチでき、売り上げアップに貢献できます。

クラウドサービスの導入

最近では、クラウドを用いた顧客管理が簡単に行えるサービスが多く展開されています。クラウドで管理されているため、外出先でも確認することができたり、簡単にデータ化できたりします。こまめに顧客管理をすることができるため、機会損失回避に有効な一手と言えるでしょう。

クラウドサービスの導入により、マーケティングやセールスの無駄を省き、顧客をしっかりつかんでおくことが機会損失回避につながります。

在庫管理部門での対策

在庫は少な過ぎると「品切れ」に、多過ぎると「スペースや投資チャンスの損失」の原因となります。つまり少なくても多くても機会損失の原因となってしまうので、徹底した在庫管理によってバランスをとり、未然に損失を防ぐ必要があります。

生産部門での対策

生産部門において機会損失を防ぐために事前に気をつけておきたいことを挙げておきます。

1.原材料が入手困難であったり希少価値が高すぎないか
機会損失の原因として多いのが、原料に関わるトラブルです。入手が難しいものや希少価値が高いものは、突然入手できる数が激減してしまうことがあります。また、天候などの自然環境の影響を強く受けるものも気をつけなければなりません。複数の入手ルートを確保するなど、事前にトラブルを想定した対策をとっておくことが重要です。

2.製造工程の設備が壊れた際、すぐ修理できる体制にあるか
機械のトラブルや故障も製造業には付き物です。そういった時でも迅速に対応できる体制にあるか、部品の取り寄せなどに時間はかからないか、日頃からのメンテナンスは充分か、といったことを常に把握しておかなければなりません。

3.生産計画に無理はないか、発注ミスはないか
生産計画に無理があったり、発注ミスがあったりすると、いくら体制を整えていても機会損失を防ぐことはできません。発注書を複数の人で確認するなどの対策が必要です。

こうした予想されるそれぞれの原因にフォーカスし、事前に機会損失を減らしていくことが事業を進めるうえで大切です。

機会損失を知って、得を知る

機会損失とは、目に見えない費用です。それを知らず、身の回りのささいな問題ばかり注視していると、大きなチャンスを逃しかねません。そもそも、機会損失を知らなければ、そういった損失自体にも気づけないのです。

例えば、

仕事でクライアントとの打合せが終わり出先から帰社するのに、駅まで歩いて地下鉄を乗り継いで行くと1,500円で1時間半かかるとします。

一方で、8,500円かかるものの、タクシーで高速道路を利用すれば30分で帰社できるとします。

一見、地下鉄で帰社したほうが7,000円もお得なようですが、これは「目に見える費用」に過ぎません。

仮に、タクシーで1時間早く帰社できれば、その分、次回のコンペのプレゼン資料の作成に注力することが出来るかもしれません。その結果、月間100万円の案件を獲ることができたとしたら、7,000円のために100万円を棒に振ったと考えることもできます。

目の前の交通費にこだわってしまうと、大きな案件を逃しかねないということです。しかし、機会損失の考え方を知らないと、そこには気づけないのです。

機会損失にまつわる言葉

世の中には似たような意味を持った言葉が複数あり、それぞれが状況に応じて使い分けられていることってよくありますよね。機会損失においても、そういった類義語や同義語が存在します。

・機会費用
・逸失利益
・機会原価

などです。

また、ビジネスでは「機会損失解消」といった一般的にイメージしづらい言葉も出てきます。ここでは、そういった機会損失にまつわる各種の「言葉」をご紹介していきます。

機会損失解消の意味

「機会損失解消」と言われても、イメージがわかない人も少なくないでしょう。

「機会損失」という言葉は、ビジネスや経営学上で使われる専門用語であり、日常の生活のなかで使用されることは滅多にありません。しかし、機会損失の概念を理解すれば、物事を考える際の視点が増えます。

こういった考え方が出来るようになると、ビジネスはもちろん、日常生活や人生においても大きなメリットを得られるようになるのです。

機会損失は、「儲け損なう」ことですから、機会損失解消は、「儲け損なう状況が改善された」という意味です。

確かに難しい言葉ですが、知っておいて損はありません。是非、覚えておきましょう。

逸失利益

「逸失利益」とは、不法行為や事故などの偶発的な事実がなければ得られていたはずの利益です。

逸失利益で代表的なのが交通事故です。例えば、交通事故で被害者が死亡した場合、その人が将来得られたであろう利益が「逸失利益」です。

この場合の逸失利益は、被害者が若者であれば「命の値段」と呼ばれ、厚生労働省が発表する賃金センサス(賃金構造基本統計)に基づいて算出されます。

また、事故で後遺症が残った場合も同様で、後遺症がなければ得られていただろう利益が「逸失利益」となるのです。

機会損失は、選択を間違えたために発生する「損失」なのに対し、逸失利益は将来得られるはずの「利益」のことを指します。

機会原価

機会原価とは、複数ある案のうちの一つを選択した場合に失われる利益のことです。機会原価は機会費用と同義語で、経済学上で使用される用語です。

投資する際の機会原価について具体例を挙げて見ていきましょう。

<具体例>
500万の資金でX社、Y社、Z社のなかで最も有利と予想したX社の株を購入することにした。

1年後、それぞれの株価は、X社:550万円、Y社:600万円、Z社:520万円となった。最善の選択はY社であったことになり、機会原価は(600万円−550万円=)50万円となります。

機会原価は、投資の世界でよく出てくる考え方です。何が機会原価なのかをしっかり見極められなければ投資すべき対象を間違えてしまうので、気をつけなければなりません。

振り返り、改善するための機会損失

機会損失とは、過去の自分の選択を振り返ることです。

人は1日で9,000回以上の選択をすると言われています。無意識のうちにとても多くの判断をしていることが窺えます。そして、その中で最善の選択が出来なかった場合は、機会損失が発生することになります。ビジネスに限らず、日常生活においても機会損失は生じているのです。

機会損失の考え方を知らなければ「無いもの」とみなされる損失ですが、この考え方を知れば、1つの物事を複数の視点から見ることが出来るようになるでしょう。見えない損失であっても、これに気づくことができれば改善にもつながります。

この記事では、機会損失について様々な角度から解説してきました。これをきっかけに、機会損失という考え方をより身近なものととらえて、ビジネスや生活に取り入れてみてください。

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この記事を監修した人

ビジネスのノウハウを実践ベースで徹底的に追求するのがアクシグ。
世界で最も専門的で網羅的なコンテンツを提供し、ノウハウを惜しげもなく提供していきます。

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